第7回いっしょに読もう!新聞コンクール
HAPPY NEWS賞・阿部瑞希さんと出会った記者の思い

読者に気付かされた先入観

阿部さんと筆者

 阿部さんの応募用紙を読んで、思い出した言葉がある。「自撮り」の記事で、北朝鮮選手に記念撮影を誘った韓国代表のイ・ウンジュ選手が、取材中にこぼした一言だ。「こんな話、記事になりますか」

 阿部さんは母親との対話のあと、「仲良く写真を撮るという普通の行動が新聞に取り上げられるのは、本当はおかしなこと」と感じたという。イ選手自身、北朝鮮選手との自撮り写真をSNS上にアップしただけで騒ぎになる状況を「おかしなこと」と感じていたのだ。

 この記事が、阿部さんのような読者に、何か気づきを与えるヒントになったのなら本望だ。だが、新聞記者になって約10年。凝り固まった先入観を持ちすぎて取材に当たっていたのではないか、とハッとさせられた瞬間でもあった。

 阿部さんは書いている。「平和な世の中をつくっていくためには、国の政治や問題、見た目だけで人を判断するのではなく、人の良いところを見つけ、仲良くしていくことが大切」と。紋切り型の取材こそが、先入観を生み出しかねない。襟を正さねば、と気づかされた交流だった。

筆者

牛尾 梓(うしお・あずさ)
朝日新聞東京本社 社会部

「新聞研究」2017年2月号掲載
※肩書は執筆当時