“先生”体験から考える

「舞台」での経験を新聞づくりに生かす

 最後に質問タイムで時間を調整し、準備段階からの苦闘が幕を閉じる。汗をかきながら、たまに笑えたり、ちょっと難しいことを言ったり、身振り手振りも交えて何かを伝えようとしているおじさんの姿は、子どもたちにとっては新聞そのもののイメージかもしれない。だとすれば、出前授業の取り組みは新聞づくりに通じ、実は新聞社の人間の研修的な性格を持つ、と言えまいか。

 事象への好奇心からスタートし、多くの材料を集め(取材)、価値判断と取捨選択で苦しみ(編集)、伝えるための工夫を考え(図表を付けるなど)、ひとつの作品を作り上げていくという一連の手順。子どもたちに教えながら、新聞社生活の記憶が走馬灯のように……。
教室での反応、先生方からの事後アンケート、子どもたちからの「お手紙」に書き込まれた正直な「観客」の声は、いつまでたっても不慣れな「先生」への励ましだ。帰路の車内では、軽くぐったりしながら「次の授業はもっと良いものにしたい(笑いも取りたい)。新聞づくりも、きょう話した内容に恥じないように取り組もう」と胸に刻む。

 そして、記憶も薄れかけた数か月後、事務局から「しんぶん塾なんだけど、○月○日の都合どう?」と声がかかる。次の舞台が私を待っている。

筆者・プロフィール

桐生 典夫(きりゅう・のりお)
下野新聞社 編集局デジタル編集班部長代理

「新聞研究」2017年5月号掲載
※肩書は執筆当時