第8回いっしょに読もう!新聞コンクール 最優秀賞(中学生部門)・中山桜さんと出会った記者の思い

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表彰式で対談する中山さん(右)と岡崎記者

伝わった命の重さという宝物

 ダウン症の人の9割以上が毎日幸せと感じている――。こんな趣旨の小さな記事を、インターネット上で見つけた。読んだ瞬間、私はハンマーで頭を殴られたような気がした。


 この記事からさかのぼること4年前。当時、妊娠中の私は「新型出生前診断」の取材を重ねていた。妊娠10週前後と早くから胎児に染色体異常があるかどうかを調べられ、精度もそれなりに高い検査だ。「検査を受ける、受けないは各自の責任で判断すべきだが、一方で安易な命の選別が行われるリスクはないのか」。当時、科学医療部の記者として、こうした視点で報道を続けていた。検査で異常がわかった人の99%以上が中絶を選んでおり、最も多く見つかる異常がダウン症だった。


 当時の私の報道で決定的に欠けていたのが、当事者の声だった。冒頭の記事を読んだとき、自らの至らなさを反省するとともに、これは絶対伝えねばならないと責任を感じた。


伝えたかった当事者の声


 以前の私なら、調査を担当した大学の先生に話を聞いただけで記事にしたかもしれない。だが子を持つ身となり、今回はどうしても、当事者の声を併せて伝えたかった。そんなときに思い出したのが、少し前に読んだ「小倉昌男 祈りと経営」(森健著)だった。宅急便の生みの親であるヤマト運輸元社長の小倉さんは、晩年、社会福祉に力を入れていた。その一つに障害者が働くスワンベーカリーがある。さっそくスワンに取材を申し込み、紹介してもらったのが加藤錦さんだった。


 加藤さんは初対面にもかかわらず、仕事のやりがいや休日の過ごし方などを笑顔で話してくれた。私は錦さんをこのような明るい青年に育てたご家族に興味を持ち、母親の美代子さんに話を聞く機会を得た。


 職場を抜け出してインタビューに応じてくれた美代子さんは、想像通りすてきな方だった。生まれた直後は受け入れられなかったこと。少しでも能力を伸ばそうと幼少期は訓練に連れ回したこと。そんなことも、ざっくばらんに話してくれた。一番心に残ったのは「錦という名前は、お宝という意味。小さいころから『お宝錦』と呼んでいた」という言葉だった。


増えた宝物


 残念ながら記事にこの言葉は掲載されなかった。だが中山桜さん(14)は、私が伝えたかったメッセージをきちんと受け止めてくれた。彼女は感想文にこう記している。「命の重さは皆、平等でもあり何よりも重い。その命を幸せと思えるか不幸と思うかは、自分自身が決めることだと思った」


 授賞式には加藤さん親子をご招待した。中山さんが「何をしているときが幸せですか」と尋ねると、錦さんは「家族みんなでご飯を食べているとき」と答えた。そして美代子さんは、参加者の前で「お宝錦」のエピソードを披露してくれた。


 後日、中山さんから折り紙で折った四つ葉のクローバーとともに、かわいらしい便箋に書かれたお礼の手紙をいただいた。私の宝物も、また一つ増えた。

岡崎 明子(朝日新聞東京本社特別報道部記者)「新聞研究」2018年2月号掲載 ※肩書きは執筆当時(3月1日)