実践指定校実践例 2013年度
「時事問題スピーチ」から「合意形成学習」へ
千葉県立船橋啓明高等学校(ちばけんりつふなばしけいめいこうとうがっこう) |
教科、科目、領域 |
高校(高等専門学校を含む): 公民 |
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学年 | 高校(高等専門学校を含む) 3年 |
第1編現代の政治・第2章日本国憲法の基本的性格および第3編現代社会の諸課題 |
新学習指導要領で「言語活動の充実」が求められる今,主権者として必要なスキル(技能)を獲得させる学習方法の工夫を目指す。 |
教師の側から題材(テーマ)を提示して生徒の問題関心を喚起するが,新聞記事を活用して学習の時期に話題となっているタイムリーな事柄を選択することが重要である。 |
「公民としての資質」を養わせる具体的学習方法の確立を目指し,3年次生の「政治・経済(3単位・選択生徒110名)」および「政治経済研究(学校設定科目・2単位・選択生徒17名)」で実践を行った。
第2~4時(「合意形成学習/出生前診断」) |
「合意形成学習」の準備段階として,新聞記事を基にした「時事問題スピーチ」の実践を年間を通じて継続的に実施した。スピーチ原稿の作成にあたって,アサーション・トレーニングで用いられるバウアー夫妻とケリーのDESC法を活用して,「事実の確認(D)」,「意見の表明(E)」,「課題解決に向けた提案(S)」の3つの要素で原稿を構成させた。原稿の作成方法を理解させるため,最初は全員共通に「新型の出生前診断」についての新聞記事に対する原稿を書かせてスピーチを行わせたが,その後は各授業の始めに原則2名ずつ,それぞれ自分で選んだ新聞記事についてのスピーチを継続的に行った。「合意形成学習」は基本的人権の保障の単元に位置づけ,人権(“Human rights”)について考える授業として展開し,まず始めに「時事問題スピーチ」でも取り上げた「新型の出生前診断」を題材に行った。「時事問題スピーチ」同様,DESC法を活用するとともにアサーション・トレーニングの理論的背景の一つであるABC理論にトゥールミンモデルの要素を加えたワークシートを作成し,紙上シミュレーションを行った後に異なる2つの立場で「合意に向けた対話」を行った。本年度は,授業の進展状況に応じて,他に「裁判員裁判における死刑判決」,「子どもの臓器移植に対する家族の承諾」を取り上げ,関連する新聞記事をストックしておき,それらを授業で活用しながら実施した。 |
(1)意見が拮抗するようなタイムリーな題材を選び,「出来事」を詳細に設定するとともに事前にある程度の知識学習を行ってから「合意形成学習」に進む。(2)「合意に向けた対話」では,教師が進行役(ファシリテーター)を務め,発言を整理しながら相互の理解が促進されるように努める。(3)「ディベート学習」との違いを明示し,一方が他方を打ち負かすのではなく,相互に納得のいく結論を導き出すことを強調して実施する。 |
生徒は今回の授業実践を好意的に受け止め,多くの生徒が意欲的に学習していた。特に「合意形成学習」について「ディベートのような討論とは違い,対話で合意を目指すという授業に驚いた。この授業は全ての高校に課すべき授業だと思う。討論し,相手を打ち負かすのではなく,あくまでも合意を目指す。これは人生の中でたくさん経験する事だと思う。その練習を学生の時からするのは,とても良い事だと思う」との感想が見られた。
「新型の出生前診断」という題材は,家族生活における男女の協力の在り方,人工妊娠中絶によって胎児の生命を奪うことの是非や子どもをつくるにあたっての親としての責任をどう考えるのか,障害者に対する社会の支援の状況や差別の問題などの様々な「人権」に関する内容と関連する題材であったといえる。今回,新聞記事の情報を基に対話を行ったが,家庭の経済力や出産年齢など場面設定に関する質問が生徒から出された。アサーションが相手やその場の状況に応じて行動の選択をすることを考えれば当然であるといえる。今回の対話は合意の出発点として双方が自らの考えを伝え合う段階であったが,教師(大人)からのお仕着せの言葉ではなく,同世代の生徒同士の価値観をぶつけ合うことによって多くのことを実感を伴って学んでくれたのではないかと考える。
実践者名:千葉県立船橋啓明高等学校 清水 洋一