第7回 フランス(2002年3月)

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9都道府県10人の実践教師が参加し、パリ、ツール、ボルドーを訪問し、フランス政府の教育機関を訪れたほか、学校の授業を参観、新聞社を視察した。新聞・通信社等から5人が同行した。

視察概要

「NIEニュース」第27号(2002年5月31日発行)掲載

フランスのNIEは「読む能力を高める」「立派な市民となるための基本的な原則を身につける」を目的に、行政機関がイニシアチブをとって進めている。情報についての判断力を養うことは重要であるとし、メディア教育は公民教育として認識されている。

その推進母体として国民教育省管轄の「情報教育センターCLEMI」(Centre de Liaison de l'Enseignement et des Moyens d'Information)を1982年に設立した。

CLEMIはフランスのすべての教育区(30区)および海外領5か所に担当スタッフを置き、地元新聞社と学校の連絡役を果たしている。児童・生徒がすべての情報メディアにアクセスできる状況を目指し、新聞だけでなくメディア教育全般を扱っている。

学校における新聞週間

CLEMIは1989年から、毎年春に学校におけるプレスウイーク(新聞週間)を設け、活発展開している。新聞週間は国民教育省の公式キャンペーンとなっており、教師も保護者も認識している。今年は新聞・雑誌約500社、テレビ・ラジオ約300社が参加した。また、全国の教師の四分の一に当たる約25万6,000人、児童・生徒の三分の一に当たる約380万人が参加した。学校も報道機関も自発的に参加している。

週間中は記者が学校に出向き、記事の書き方や学校新聞作りなどを指導する。新聞提供もしており、教師、児童・生徒は学校内の模擬新聞売り場(キオスク)で新聞を自由に読める。週間中に表現の自由と責任についての授業をする学校も多い。

地方紙団体も活動

新聞社は地方紙の団体ARPEJ(L'Association Regions Presse Enseignement Jeunesse)を拠点にNIE活動を進めている。フランスではARPEJとCLEMIの二組織がNIEの推進の中心である。ARPEJでは、児童・生徒がそれぞれの地元について書いた記事をまとめた新聞の発行などもしている。

フランスの義務教育は6~16歳まである。第一段階としてエコール(小学校)で準備課程から中級課程2年次(10歳)までの5年間の教育を受ける。これに先立つ就学前教育も盛んで、2歳半~5歳のほとんどの幼児は幼稚園に通っている。

中等教育はコレージュ(中学校)とリセ(高校)に分かれる。11~15歳の間はコレージュで、その間の観察・指導結果に基づいて、後期中等教育はリセと職業リセに振り分けられる。

リセは修業年限3年で、主に高等教育進学希望者を対象にバカロレア(中等教育修了と高等教育入学資格を併せて認定する国家資格)の取得準備のための教育を行っている。

メディア教育の中枢CDI

中学、高校には図書館にあたる情報資料センター(CDI)が必ず設置されており、その責任者であるドキュメンタリストがメディア教育において重要な役割を担っている。

まず、CDIは学校内で新聞が読める場所であり、CDIの大半には、生徒や教師がメディア情報を得られるよう、一目でそれとわかる「新聞コーナー」が設けられている。教師の大半が新聞を教材として使用している。高校の生徒は自主学習の形で新聞メディアを活用している。

また、ドキュメンタリストは校内での新聞週間の中心として、週間に関する情報を広く生徒に伝え、週間のプロジェクトをコーディネートし、学校行事の中に取り込むことも行っている。

ドキュメンタリストは新聞メディアを精読し、記事の分類・件名別の索引化を行っている。また、常に新聞の文章の特殊性を生徒に伝え、メデイアに対する批判的な目を養うようにしている。

コピーで紙面を復元

パリで訪れたジャコメッティ中学校では、各生徒が新聞を持ってきて、新聞の一面がどのように違うかを見比べていた。

授業では、同じ事件でも新聞によって取りあげ方が違うことを認識させた。生徒が持ってきた新聞は「Le Monde」などの全国紙から「Le Parisien」などの地方紙までさまざま。中には地下鉄などで無料配布したことが話題となった「Metro」を持ってきた生徒もいた。フランスでは新聞が宅配制ではないので、読む機会のない生徒もいる。そのため、多くの新聞を読ませることもねらいのひとつになっている。

次に、一般的な一面の構成を説明し、実際の紙面での当該部分がどこにあたるかを調べる。

続いて、バラバラになった紙面のコピーをジグソーパズルのように張り付け、紙面を復元させる。割付作業を行うことで、紙面構成の仕組みを理解させることを目的としている。これはCLEMIが推奨している授業方法で、フランス国内では多くの学校で行われているようだ。その後訪ねたカミーユ・セ高等学校中等部でも行われていた。

同校では、新聞週間中はCDI室内に新聞を展示し、自由に閲覧できるようにしている。その中にはパレスチナの子供の写真が掲載されている新聞もあった。

フランスは移民が多く、同校でもアラブ系、ユダヤ系双方の生徒が在籍しており、米国同時多発テロについては非常に関心が高いとのことだった。

自分の意見を形成させる

また、フランスでは学校新聞作りも活発だ。小学校では学校新聞作りがカリキュラムに組み込まれており、読む力、書く力、広くいろいろな考え方を取り入れる能力の育成に役立つとされている。中学では公民教育の一環として、授業で行うのではなく、有志のクラブ活動として行う。学校新聞は学校の出来事などを紹介するだけでなく、生徒の意見を表明する場としても位置付けられている。1991年以降、高校では個人の責任において意見表明することになっており、記事の内容(意見)に関しては教師のチェックは行われない。

フランスでは、調べ学習などの教材として新聞を使うのではなく、新聞に掲載されているさまざまな考えを通じて、自分の考えを持たせることに力を入れていることが伺われる。ブラントン幼稚園では、園児の感性を高めるため、至るところに彫刻が飾られている。視察当日には、彫刻の制作者であるジャンポール・ドージュシュ氏が来園し、彫刻を見てどう思ったか、園児に感想を言わせていた。

立派な市民になるために

フランスの新聞は主義主張がはっきりしている。そのため、CLEMIは極右的、極左的な新聞、宗教的な新聞も含め、すべての新聞を教育に使うように指導している。

CLEMIのイブリンヌ・ベボルト副所長は「絶対的客観性のある新聞はない。新聞にはさまざまな情報がのっている。その多様な情報、意見と接触していく中で、情報の判断力を養うことが重要だ」と述べている。

ベボルト氏は今後の課題として、以下の点を挙げていた。まずは、新聞週間に参加する新聞社、学校をどう増やすか、という点だ。新聞週間を設立した13年前と比べると参加者は10倍に増えたが、そのうち、6割が新聞週間にしかNIEを行っていないので、週間後も継続してNIEを行えるような施策の必要性を挙げていた。次に、インターネットの普及に伴い、現実とバーチャルをどう区別させるか、という点。最後は、国際間のメディア比較だ。フランス国内だけでなく、世界の目はフランスをどう見ているか、といった国際レベルでの情報判断能力を身につけさせるためだ。

CLEMIでは、ひとつのテーマに関する世界各国の記事を、フランス語でまとめた新聞やCD-ROMの配布のほか、あるテーマに対して世界中の子どもが書いた記事をまとめた国際新聞「FAX」も作成している。

フランスは世界で初めて人権宣言をした国でもあり、表現の自由を保障するため、国がバックアップしてメディア教育を推進している。複数の訪問先で「立派な市民になるため、NIEを行う」ということを強調していた。人権を非常に重視していることが感じられた。

参加者の感想から

  • 学校新聞に取り組んで、子どもたちに記事の書き手の立場を経験させることで、批判的に読む力をはぐくんでいけると思った
  • 「自ら考え正しい情報を選択する力」をつけさせるための授業の確立にむけ、おおいに勉強になった
  • 子どもたちの、多様で、多角的な見方や考え方を育てるためには、教師自身が学び続け、成長する必要性を強く感じた
  • 国が教育に対して、相当真剣に取り組んでいることを強く感じた

日程

3月24日(日)
  • パリ着
3月25日(月)
  • パリ ブラントン幼稚園(Ecole maternelle Brantome)訪問
  • ル・パリジャン(Le Parisien)訪問
3月26日(火)
  • パリ ジャコメッティ中学校(Giacometti college)訪問
  • カミーユセ高等学校中等部(the Camille See lycee)訪問
  • ル・モンド(Le Monde)訪問
3月27日(水)
  • ツール ルブ中学校(the college Rebout)訪問
  • ラ・ヌーベル・レピュブリック・デュ・セントロ・ウエスト訪問 (La Nouvelle Republique du Centre-Ouest)
3月28日(木)
  • ボルドー レジュイ小学校(Ecole Rejouit)を訪問
  • モンテーニュ技術短期大学(Institut Universitaire de Technologie Michel de Montaigne)を訪問
3月29日(金)
  • パリ フランス情報教育センター(CLEMI)を訪問
  • CLEMIスタッフと昼食
  • パリ発
3月30日(土)
  • 帰国・成田着