“先生”体験から考える

スマホ時代に伝える「紙」の新聞の意義

 メディアに興味を持つ学生を対象にした講座にもかかわらず、新聞を購読していない者が多数を占めたのは、予想されたことだ。気になったのは、記者がいかに苦労をして記事を書いているかに思いをはせられない学生たちが多かったことだ。

 スマホをタップするだけで手軽にニュースをチェックできるという環境が、記事も手軽に書かれているという誤解を生んでいるのかもしれない。活字がぎっしりと詰まった紙の新聞を手にすれば、新聞には膨大な量の情報が詰まっていて、たくさんの記者が関わっていることが実感として分かる。しかし、スマホの小さな画面の中で、次々とリンク先にとびながら短文のニュースをチェックしていると、なかなかそこに思いが至らないのだろう。

 活字離れが懸念されるなか、新聞の生き残り策に話題が及ぶと、若者を読者にする手段として、出前授業を提案する学生が予想以上に多かった。中には、「小学生の頃に新聞社の出前授業を受け、それ以来新聞に興味を持って読むようになった」と自身の体験を語ってくれた学生もいた。

 1回の出前授業で関われる子どもたちの数は限られている。ただ、未来の読者を育てるには、記者とじかにふれあう体験に勝るものはない。出前授業の意義にあらためて気づかされ、その重さに身を引き締めた瞬間だった。

筆者・プロフィール

保井 隆之(やすい・たかゆき)
読売新聞東京本社 教育ネットワーク事務局主任

「新聞研究」2017年2月号掲載
※肩書は執筆当時