“先生”体験から考える

厳しい環境の子を支える―「読者獲得」と2本柱のNIE

 "先生"体験で分かったことは数知れない。

 「記者さんが来たー」「ようこそ○○小学校へ」。子どもたちの歓迎に、ゲストティーチャーに対する期待の高さを感じる。その分、授業も気が抜けない。

 「この記事、続きはどこ?」「見出し?それ何?」。広範囲に流し組みされた記事に子どもたちは戸惑う。新聞社内で普通に使う言葉も、なじみが薄い。

 高知新聞社がNIE活動を本格化して20数年。その歩みの半分以上に関わってきた。分かったことは次の授業に生かした。「見出し」という言葉には「記事のタイトル」と解説を加えた。

 2019年度も同僚2人と"先生"体験を続けている。11月末までに、小中高校延べ80校ほどの児童生徒約3800人に出前授業。記事の書き方や新聞づくりについて伝えてきた。職場体験では13校の中学生25人を受け入れ、取材、原稿執筆をともにしてきた。

子どもの貧困"先進県"

 ただ、"先生"体験だけでは分からないこともたくさんある。

 NIEの授業をする。ワークシートに落書きをしている子。机に広げたそれに突っ伏している子。彼、彼女たちをどう見るか。「不真面目な子」か。

 1992年からの記者生活で多くの教員にお世話になってきたが、誰もが、子どもたちを学びから遠ざけている背景を見つめていた。その一つが、子どもの貧困。2000年代後半に取りざたされるようになったこの国の課題だが、高知は"先進県"だった。

 指標の一つとして重視しているのが、就学援助率。生活保護家庭や、保護基準程度の収入しかない家庭の小中学生を支える社会保障である。全国の公立小中で6・4%だった1996年度、高知は10・0%で、中には30%を超える公立中や20%にも上る公立小もあった。

 その後の経済低迷期、全国で援助率が上昇し続ける。高知は常に47都道府県の"トップランナー"で、2013年度から最新データの16年度まで、4年連続25%台で1位だ(ちなみに全国は15%台)。

 記者生活では、いろんな子にも出会ってきた。1990年代。あまりにもおなかがすき、スーパーで総菜を万引きした男子小学生。

 2000年代。小学校の担任の先生が万年床になっている部屋を掃除しにいった、経済的に厳しい家庭の兄弟。

 10年代。生活保護を受けている男子中学生には初対面でお願いされた。「定規2本、貸してくれんろうか? 明日の数学のテストでいるがって」

 母子家庭の女子高校生には悩みを打ち明けられた。「私もバイト代から家賃出すき、もうちょっといいアパートに住もうってお母さんにいいゆけど......」

 ある女子中学生は、ほろほろ泣きながらいった。「病院でお金払う時。うちは生活保護やき払わんでいいんやけど。生活保護ってばれるのはいや。病院、行きたくない」

 16年度から4年間の指針である高知県教育大綱でも、五つの柱の一つに「厳しい環境にある子どもたちへの支援」が盛り込まれている。

狙うはエンパワーメント

 高知のこの大きな教育課題に、高知新聞社のNIEは何ができるか。CSR(企業の社会的責任)に悩んできた。たどり着いたのが、厳しい環境にある子のエンパワーメント。そうすることで、学びへの意欲を持ってもらおうと考えた。

 大切にしたい授業がある。一つは、はがき新聞づくり。100~500字程度書けば完成するはがき大のミニ新聞で、日ごろ作文に苦戦している子も「できたー!」と私たちに見せにくる。すてきな部分を探し、褒める。

 「先生は『あの子は文章力が......』というが、はがき新聞なら書ける。喜ぶ子の姿に、先生もクラスメートも思わず一緒に喜んでいる」とは同僚の言。

 もう一つは「投稿もの」の出前授業。本紙朝刊に毎日載せている「読もっか こども高知新聞」は、「こども記者だより(作文)」「イラスト」「4コマまんが」などを募集している。18年度は年間2千数百点を掲載。時折、それらのコツを教えに行く。

 厳しい環境の子を重点的に見て、作品を持ち帰って掲載。すると、クラス、学校全体がその子を評価してくれる。さらに高知新聞の愛読者である年配の近隣住民たちが、その子に「新聞に載っちょったね」と声を掛けてくれる。

 そうした支えに、学びに意欲的になる子も。厳しい環境の子だけではない。不登校支援センターの子は「来年は学校の修学旅行に行く」、弱視の子は「パソコンを覚えて、それで作文やイラストをかく」と目標を掲げてくれた。

 19年度はこの営みに、コラージュ川柳も加えた。見出しから5音、7音の文字を切り抜き、面白く五・七・五に組み合わせるものだ。

 他者に認められる。エンパワーメントの大きな源である。学校で、地域社会で、子どもたちと読者とともにこの仕組みを広げていきたい。ただ、「学校が紙文化中心」で「年配の愛読者がまだ元気」な今のうちはいい。課題は「デジタル時代への対応」で、同僚たちと新たな取り組みを模索している。が、忘れてはいけないことは変わらない。

 先日、二つの小学校を続けて取材した。どちらも作文の授業。初めの学校はクラス全員が黙々と取り組んでいた。次の学校は30分間、1文字も書けない子が何人もいた。旧知の校長に率直に聞くと、やはり背景には厳しい環境があった。

 近々、再訪するつもりだ。当然、書けなかった子たちのいる方に。

筆者・プロフィール

塚地 和久(つかじ・かずひさ)
高知新聞社 読もっかNIE編集部副部長 

「新聞研究」2020年1-2月号掲載
※肩書は執筆当時