“先生”体験から考える

継続指導で興味を喚起―座学と実践織り交ぜ理解を促す

 「中学1年生に、総合的な学習の時間を使って継続的に新聞のことを学ばせたい。講師に来てもらえないか」。宮崎市内の私立中高一貫校から今年4月、読者室に依頼が舞い込んだ。一つの学校を複数回訪れ壁新聞の作り方などを指導したことはあるものの、継続して講座を受け持ったことはない。試行錯誤しながらメニュー作りと実践に取り組んでいる。

細分化してきめ細やかに指導

 NIEについては、宮崎県では概して私立校が熱心なようだ。少子高齢化の中で生徒を集めるのに大学進学率は重要なPR要素になる。2020年度の大学入試制度改革をにらみ、新聞活用教育への関心はより高まっているようだ。

 以前からこの学校は、生徒が関心を持った新聞記事をワークシートに貼り、要約や感想を記す「ハッピーノート」作りを行ってきた。しかし、年度によって取り組みに差があった。「NIEをしっかりやろう」と意を新たにしたのは、16年度卒業生の国公立大進学率が際だって良かったことが一因と思われる。特別な教育はしていないのになぜか。理由を探ったところ、その学年は「ハッピーノート」活動に最も熱心に取り組んでいたことが分かり、教育における新聞の効果を再認識したという。

 一方で生徒たちの家庭における購読率は年々低下し、新聞を身近に感じている生徒は減っている。そこでまず、新聞について学ぶことで興味関心を持たせたいと、白羽の矢が立ったわけだ。

 授業はいつも2コマ連続で受け持ち、6月までに4回行った。初回は、新聞の役割や特徴、歴史などを概説した。2回目は見出しの役割を説明。平昌五輪での男子フィギュアスケート羽生結弦選手の金メダル獲得を報じる本紙号外や、本県出身の人気漫才コンビ「とろサーモン」のM―1グランプリ獲得を1面に掲載した「宮日こども新聞」など、関心を引きそうな記事を教材にした。見出しを隠したワークシートを渡して生徒に考えさせ、画像で一つずつ見出しを見せる仕掛けはゲーム感覚で楽しんでくれた。

 3回目は、前文(リード)の役割。記事を書く上での鉄則「5W1H」や結論を先に示す逆三角形で書く理由を、午後9時過ぎに発生し、紙面を大幅に作り替えた2年前の熊本地震の例を引いて説明した。その後は、配った記事コピーから5W1Hを抜き書きする作業を実施。生徒は枚数をこなすにつれて回答する速度が上がり、記事の構成やリードと見出しとの関係が納得できた様子だった。

 4回目は4人ずつ班に分かれ、スクラップ新聞を作った。「喜」「怒」「哀」「楽」や「ふるさと自慢」「地域を元気に」など、用意したテーマを記したくじを班の代表に引かせて作業を開始。生徒は新聞を回し読み、記事を切り抜き、意見交換をしながら配置や題字、リードなどを考えたり、見栄え良く飾ったりと、教室に活気があふれた。

 いずれも出前授業の内容としては基本的なもので目新しさはないが、講師の立場から言えば1回限り、片道通行の授業よりはるかにやりがいがある。伝えたいことを細分化し、実践を伴いながら指導すると生徒の理解は格段に深まる。それを肌で感じるのはうれしいことだ。

 担当教諭からいただく生徒の感想文を読むと、授業を重ねるごとに新聞への理解が深まるとともに興味関心も高まっていることが分かる。添えられる質問はより高度になり、「人は興味関心が高まると疑問も増え、追究したり解明したりしたくなるものだ」と実感できる。

 この学校には2学期以降も月1回出向く。新聞に対する生徒の興味関心を今以上に高め、理解を促す手伝いができるよう、より良い授業の方法を考えたい。

夏休み教室で教える技術磨く

 読者室は小中高校、大学などを対象に行う出前授業「学校に宮日がやってくる」の申込窓口であり、本社の編集部局や支社支局の記者にも協力を仰ぎながら展開している。昨年度は延べ33校を訪れ約2200人の児童生徒、学生を相手にした。

 テーマは、新聞の読み方や役割に関する講話が大半。次いで取材の仕方や写真撮影方法、レイアウトなどを含む新聞製作、仕事の中身を紹介する職業講話、媒体の違いなどを解説するメディアリテラシーと続く。新聞製作を除いてはほとんどが単発、文字通り「通り一遍」の依頼で、他社のユニークな授業を見聞するたび感心し、引け目を感じるばかりだ。

 教える技術の向上や指導する内容の幅を広げるため、16年度に「夏休み新聞教室」を始めた。初年度は、親子約20組にオリジナルの新聞台紙を配り「夏の思い出新聞」を作ってもらった。17年度は対象を子どもに絞って日替わりで参加者を募集。「スクラップ新聞」「はがき新聞」「思い出新聞」作りを楽しんでもらった。

 中でもスクラップ新聞作りは好評だった。子どもたちは考えてきたテーマに沿った記事を探しては切り抜き、大胆に貼り付けては興味を引く見出しを付け、「大相撲夏場所新聞」、外来種として話題になった「ヒアリ新聞」、カラフルな花の写真を集めた「フラワー新聞」など思い思いに製作。見学していた保護者の中には、つられて食べ物の記事をまとめた「グルメ新聞」を作った人もいた。今年も7月下旬から4回開催する予定だ。

 最後に、出前授業で子どもと接するたびに感じる杞憂を一つ。受講した子どもたちは例外なく「新聞は信頼できる」とか「本当のことを書いてあるのが分かった」との感想を寄せてくれる。うれしい半面、与えた情報をあまりにも素直に受容する姿には不安を覚える。批判的に考察する素地が見えないのだ。純で真っ白なことに怖さを感じる。先生方には眉をひそめられそうだが、「あまのじゃく」な視点を育てるべく批判的思考の大切さを説いていきたい。

筆者・プロフィール

湯田 光(ゆた・ひかる)
宮崎日日新聞社 読者室長

「新聞研究」2018年8月号掲載
※肩書は執筆当時