“先生”体験から考える

知る楽しみに日々触れてこそ

 新学習指導要領は総則の中で、言葉を「すべての教科等における学習の基盤」と位置づけ「言語能力の向上は重要な課題として受け止め、重視していくことが求められる」とする。一方で、指導要領に基づき授業をする先生たちは、「読めない」子どもの多さを肌で感じている。国立情報学研究所は昨年、調査結果の報告で中高生の読解力不足を指摘した。

 求められる力と、身につけさせる子どもの実態の狭間で悩む先生たち。一人でも多く、早くNIEと出会ってほしいと思う。文章を読む力を養うことこそ、新聞の得意分野だ。

 同時に、新聞に親しむ環境作りを学校頼みだけにはできない、とも感じている。年明けの信毎に載った投稿。80代男性読者は、平和だからこそ昭和、平成、そして来年の新元号の時代まで3代を生きられる、教養を身につけ豊かな人生を送りたいという。そして、物心つくころから本と新聞で知識を蓄えた、努力してではなく面白いからだ、とつづっていた。
家に新聞があって自然と親しむ中から、知ることは面白いことと感じて知識やものの見方を蓄え、豊かな人生につなげてきた人は少なくないだろう。その環境は、業界の先人たちが築いた戸別宅配制度と高普及率があってこそ、だ。

 いま、普及率の低下は長野県も例外ではない。授業で新聞を使っても、子どもが日々の暮らしの中で新聞に触れる環境がなければ、関心は一過性に終わってしまう。投稿者のように日々新聞を読み続ける姿こそ、NIEが目指す「不確かな現代を生きる力の育成」ではないか。

 新聞社として、家庭で「新聞は暮らしの必需品」と認めてもらう取り組みも尽くさなければならない。学校の先生たちに「宅配網を維持できなければ、授業の力になれなくなってしまう」という、こちらの立場を理解してもらうためにも。

 NIEを起点に、できることがまだある。考えた末にたどり着いたのは現状の再認識でしかないが、可能性を信じて今年も仕事に励みたい。

筆者・プロフィール

宮坂 博昭(みやさか・ひろあき)
信濃毎日新聞社 読者センター長

「新聞研究」2018年2月号掲載
※肩書は執筆当時