兵庫県NIE推進協議会・小学校NIE公開授業報告

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淡路人形浄瑠璃の魅力をどう見出しにしたか―。
批評し合う児童たち

 NIE活動の一環で、淡路島の伝統芸能「淡路人形浄瑠璃」の魅力を伝える見出しを考える公開授業が10月20日、兵庫県淡路市の志筑小学校で開かれた。6年生32人が演目や人形の仕組み、歴史、海外公演などテーマごとにメーンの「主見出し」とサブの「脇見出し」を考えた。

 兵庫県NIE推進協議会の主催。同校は2019年度から日本新聞協会のNIE実践指定校に認定されている。

 国指定重要無形民俗文化財の淡路人形浄瑠璃は江戸時代に隆盛を極め、島内に40以上の興業組織「座」があった。現在は南あわじ市の淡路人形座のみで公演が続けられている。

 児童たちは本年度、この人形浄瑠璃を題材にした新聞づくりに取り組んでいる。この日は10班に分かれ、テーマごとに見出しを発表した。「演目」では「魅力の秘密は演目にあり」(主見出し)、「なんとびっくり30個以上」(脇見出し)、「人形の動かし方」では「3人で息を合わせる人形遣い」(主見出し)など、子どものセンスが光った。

1960年代まで志筑地区を本拠地として活動した淡路源之丞座をテーマにした班は「志筑のほこり『源之丞座‼』」とすっきりした主見出しを付けた。

 児童たちは同協議会の記者派遣事業の際、実際の新聞記事を使って見出しを作ったばかりで、その経験も生かされた。

 公開授業には教育関係者ら約30人が参加した。新型コロナウイルス対策としてテレビ会議システム「Zoom(ズーム)」でも公開し、県外(京都、岡山、長野の3府県)から初めて参加があった。淡路人形浄瑠璃の継承に取り組む島内3つの中学・高校からも教員が参加した。

〈児童の感想〉繁田悠希君「各班の見出しについて意見を交わしたのを生かし、読んだ人がうれしくなるような新聞を作りたい」、田中佑奈さん「ほかの班が付けた良い見出しが役に立った。みんなに分かりやすい新聞を作りたい」

 そのほかの児童の感想はこちら

三好 正文(兵庫県NIE推進協議会事務局長)

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〈NIE公開授業を終えて〉

 6年生は、総合的な学習で淡路人形浄瑠璃に取り組んでいる。3年目になる今年は、目標を「淡路人形浄瑠璃の魅力を地域や全校生に発信する」と決め、その歴史や演目、それぞれの役割など、自分たちが魅力と感じるテーマについてグループに分かれて調べたり、実際に「戎舞(えびすまい)」という演目を演じようとがんばって練習したりしてきた。

 今回の授業は、淡路人形浄瑠璃の魅力について新聞を通じて伝えようという活動の一環として取り組んだ。

 事前に記者派遣事業を通し、取材の方法や見出しの付け方を学んだ子どもたちは、今回の学習で、自分たちのテーマに合う見出しをグループごとに考えた。そして、考えた見出しについてお互いに意見を出し合い、よりよい見出しになるように工夫した。

 子どもたちは見出しの役割や付け方についてきちんと分かっていないところもあり、まだまだ工夫の余地は残されていると思うが、授業を通して、自分たちの持つ情報や思いを伝える一つの手段として「新聞の良さ」に気付けたのではないかと思う。伝えたいことをしっかりと伝えられるように、これからも取り組みを進めていきたい。

南 志乃婦(淡路市立志筑小学校主幹教諭)

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〈淡路市立志筑小学校NIE公開授業 参加者の感想〉

◇津田康子・伊丹市立天神川小学校校長(兵庫県NIE推進協議会特任アドバイザー)

 公開授業がZoomでも視聴できると聞き、参加した。南志乃婦主幹教諭の指導の下、記者派遣で学んだことを生かし、児童が「『淡路人形浄瑠璃』の魅力を伝える見出し」を考える授業が展開されていた。日常の取り組みの成果がとてもよく見える授業だった。「ルーブリック評価」を取り入れ、児童が授業の到達目標を意識しながら学習に臨む姿が画面を通して伝わってきた。

  新学習指指導要領が実施され、授業と評価をどう一体化させるか、学びに向かう力をどう位置づけ評価していくのか―など、今後の課題を見据えた貴重な提案であった。

◇花折了介・姫路市立豊富小中学校教諭
意見交換会で、見出し作りは「究極の要約」との意見があったように、とても思考を要する学習活動だと思う。「ちょっと格好つけて見出しを付けよう」という意見もいいなと思った。
 授業では、主見出しと脇見出しを考えることで文の組み合わせが生まれ、表現の工夫が促されるところが印象に残った。
今回、記者派遣での学習を経て公開授業が行われていた。授業を行う教員の立場からは、児童生徒の考えたものをより良いものにする指導が重要になる。そこで記者派遣でプロの記者からアドバイスを受けることは、子どもたちの大きな刺激になると思う。
意見交換会は新聞社や教科書の出版社など、多様な立場からの意見を聞くことができ、刺激を受けた。今後の授業やNIE活動に生かしていきたい。

◇飯塚智美・南あわじ市立三原中学校教諭、郷土部顧問
 「伝統芸能」と聞くと、堅苦しく、若者には敬遠されることが多いように思う。しかし、志筑小の児童たちは「郷土の文化を守ることは大切だ」という内容になりがちなところを、「淡路人形のここがすごいです」「ここが面白いです」と、伝えたい思いを形にするため、熱心に取り組んでいた。
 歴史ある淡路人形浄瑠璃の魅力を、たった10文字で表現できる素晴らしい感性や、自らの思いをしっかりと伝える力をもった児童の姿に感動した。
 また、郷土芸能に関わる者として、完成した見出しを通して、伝統を受け継ぐ重みよりも、まず楽しむことの大切さを知る機会となった。地域教材を使用することで、ふるさとを愛する気持ちが育ち、多様な価値観を育める授業だった。

◇ 日下芳宏・淡路市教育委員会教育部長
 志筑小学校の子どもたちは知的好奇心が実に豊かである。生活科・総合的な学習の研究校として実践を積み上げてきた同校の子どもたちは「読み手を意識して伝えよう」という高いモチベーションを持って学習に臨んでいた。
 今回の学習活動は、一つの正解に向かうものではなく、自分たちの力で練り上げよりよい表現を生み出そうとする、まさに知的かつ創造的な活動であった。この活動を通して子どもたちは「淡路人形浄瑠璃」というふるさとの文化に対して、これまで以上に丁寧なまなざしを向けることになったであろう。「学びの質を高めるためには、子どもが自ら題材にはたらきかけていく過程こそ大切にしなければならない」ということをあらためて認識させられる時間であった。
 ご指導・ご支援をいただいた県NIE推進協議会の皆様に心より感謝を申し上げたい。

◇石﨑立矢・京都府NIE推進協議会事務局長(京都新聞社読者交流センター長・京都新聞ジュニアタイムズ編集長)

 淡路人形浄瑠璃についての十分な学習や体験を踏まえた「見出し」作りは、内容の濃い授業となった。主見出しと脇見出し、2つの組み合わせを考える作業は、児童にも先生にも手間はかかるかもしれないが、最も伝えたいこと、感動をどう表すか、工夫を促す仕掛けであり、効果の高い手法であると印象に残った。

 Zoomを介しての公開授業は、兵庫県NIE推進協議会事務局と開催校、参加者の信頼関係、準備のたまもの。遠隔地の学校、報道機関による参観や意見交換が可能であり、特に今回、意見交換会でそれぞれの立場から感想やアイデア、経験など活発な発言があり、今後の活用の可能性を感じさせるものであった。

(2020年11月16日)