第16回いっしょに読もう!新聞コンクール 最優秀賞(中学生部門)服部陽有人さんへの記者からのメッセージ
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名古屋から広がるサイニングストアの輪
この記事は、中日新聞と東京新聞の生活面に掲載した「居場所を創る~ココトモファームの挑戦~」という「上・中・下」3回連載のうちの「中」です。「ココトモファーム」は愛知県犬山市にある農業法人の会社で、自分たちで栽培したお米の粉でバウムクーヘンを製造・販売しています。「誰ひとり取り残さない居場所を創る」を経営のビジョンに掲げており、連載では生産、製造、販売の各現場で障害のある人の特性に合わせた職場づくりをしている社の取り組みを紹介しました。
このうち「中」では、ココトモファームが愛知県内を中心に展開する店舗のうち、聴覚に障害がある人が中心になって働く「サイニングストア」を取り上げました。恥ずかしながら、私はこの取材に入るまで、「サイニングストア」という言葉を知らず、そのような店があることも知りませんでした。お店は県営名古屋空港に隣接するショッピングモール内にあります。共に聴覚に障害のあるスタッフの玉木浩人さん・千夏さんご夫婦は、私が事前に紙に書いた質問(手話ができないので)に、タブレットでの筆談やスマホの手話通訳アプリを用いて対応してくださり、過去に聴覚に障害があるゆえに悔しい思いをしたことや、今のお店で好きな接客の仕事ができている喜びを伝えてくれました。お二人は代わる代わる訪れるお客さんに身振り手振りを交えながらとても豊かな表情で応対されるので、お客さんも自然と笑顔になってバウムクーヘンを買い求め、中には手話でご夫婦と楽しそうにコミュニケーションを取るお客さんの姿もありました。傍らにいた私もとても温かな気持ちになりました。昨今、客が店の人に暴言を吐いたり、無理難題を押しつけたりする「カスタマー・ハラスメント」が社会問題になっていますが、この店はその対極にあるように感じました。
他者の痛みを想像し、行動することの尊さ
服部陽有人さんの最優秀賞受賞は、新聞記事を通じて伝えることを職業としてきた人間の一人として大変うれしく思います。耳が不自由な祖父の表情の変化を敏感に感じ取り、「自分に何かできることはないか」と考えたこと。物理的な不自由さ以上に「気持ちの面でのつらさがある」と気づいたこと。そして「祖父の自然な笑顔を引き出せる存在になりたい」との思い。他者の痛みに想像力を働かせ、自分に引き寄せて考え、行動につなげようとすることは、言葉では言えても、実はそうたやすいことではありません。我が身を省みて、中学生の服部さんがその素養を備えていることに感服せざるを得ません。
今回の服部さんの受賞に、玉木さんから「サイニングストアや手話カフェは、〝信頼〟と〝温かさ〟を育むための居場所でありたいと願って歩んできました。この作品は私たちの理念を驚くほど正確に、そして温かく受け取ってくださった証であり、若い世代が示してくれた光です」、ココトモファームの齋藤秀一社長は「私たちの小さな挑戦が、皆さんの学びや気づきにつながるとは想像しておらず、大きな励ましをいただきました。社会をつくっていくのは制度や企業だけではなく、一人ひとりの想像力や優しさだと改めて感じました」と、それぞれメッセージを寄せてくれました。玉木さんが挙げた「手話カフェ」とは、手話が「街の当たり前」になることを願って、ココトモファームがこの11月に犬山市にオープンしたカフェ版サイニングストアで、玉木さんが運営の中心を担っています。
誰もが存在を肯定される社会へ
今秋、聴覚に障害のある選手によるスポーツの祭典「デフリンピック」が東京を中心に開催され、熱戦が繰り広げられました。新聞でも連日報道されましたが、28万人もの人が競技会場で選手たちの活躍に声援を送りました。こうしたさまざまな機会を通じて障害のある人が居場所を持ち、輝き、また、社会の理解が進むことを願わずにはいられません。
最後になりますが、ひきたての生米粉にこだわったココトモファームのバウムクーヘンは、外側のサクサク感と内側のもっちり感が絶妙で、とてもおいしいです。服部さん、今回をご縁に機会を見つけて、おじいさま、おばあさまはじめご家族連れ立って愛知県に足を運び、お店を訪ねてみてくださいね。
有賀 博幸(中日新聞社編集局生活部編集委員)(2025年12月8日)





