第15回いっしょに読もう!新聞コンクール 最優秀賞(中学生部門)冨田花音さんへの記者からのメッセージ
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地域住民がつながり、支え合う「みんな食堂」
今回の記事の舞台となっている広島県呉市は広島県で3番目に大きな街です。戦前は海軍の街として栄えましたが、近年は人口減少と高齢化が進んでいます。取材したのは呉市の旧市街にある「みんな食堂」。近くには山の急勾配に建てられた古い住宅地があり、独居や買い物難民の高齢者も暮らす地域です。
今春の異動で呉支局に赴任したばかりの私は、「みんな食堂」のネーミングに「誰でも来てOK!」のメッセージを感じて興味を持ちました。最近は「地域食堂」「大人食堂」の名で運営されているケースも多く、貧困対策だけでなく地域の交流拠点としての性格も強まっています。新型コロナで他人との距離感が求められた時期を経て、「地域のつながりを取り戻そう」と考える人が増えているのかもしれません。
実際に行ってみると、高齢者のグループや親子連れが来ており、食事を通じたコミュニケーションの場、息抜きの場になっていました。高齢の女性は、「みんな」という名前が「誰でも参加できる間口の広さ」を表現しているようで、ご近所さんを誘って行ってみるきっかけになったと言います。「子ども食堂」だったら行く勇気が持てなかったかもしれない、とも。「子ども以外も利用していい」という認識が少しずつ広まっていました。
近所の中学生がボランティアとして配膳などの手伝いに来ていて、小さなお子さんと遊んでいる姿にも好感が持てました。これまで支えられる側だった子どもたちが、成長して誰かを支える側に回る経験をすることで、SNSでは味わえない生身の交流をし、社会を優しい目で見ることができる人になるのではないかと感じたのです。
「みんなの1%」持ち寄る場所
叔母が子ども食堂を運営している冨田さんは記事を読んで「食堂以上の価値を感じた。利用者の幅が広がり、人と人とをつなぐ架け橋になっている」と意見をまとめてくれました。本当にその通りで、全国で9千カ所と、子ども食堂が公立中学校の数とほぼ同数になったことからも、地域にとって必要な場所であることが分かります。公の支援だけでは手が届かないところを、顔見知りのご近所同士の支え合いでカバーしているのです。
これまで格差や貧困、労働環境の問題などを取材して感じているのは、日本が孤立しやすい社会であることです。「他人に迷惑をかけてはいけない」「自己責任」のような価値観に縛られ、苦しんでいる人を見てきました。少子高齢化や未婚、死別などが増えた現代を生きる私たちにとって、孤独や孤立は人ごとではありません。家族がいても経済的に困っていなくても孤独・孤立を感じる人もいます。
子どもだけでなく、どんな人も受け入れる居場所のようなものが、地域の「つながりの総量」が落ちているこれからの社会には必要なのではないか。ご近所の支え合いが「ソロ社会」を生きる一つのヒントになるのではないか。記事ではそれを伝えたいと考えました。冨田さんと叔母が話し合った「地域の皆ができることを持ち寄る、みんなの1%の集まりが食堂」なのだという言葉に深くうなずきました。「子ども食堂は貧困の子が行く場所」という先入観はなお残っていますが、子どもに優しい場所はきっと、誰にとっても優しい場所です。叔母さんの活動を通じて、この問題に興味を持ってくれた冨田さんのまなざしに温かい気持ちになりました。
栾 暁雨(中国新聞社記者)(2024年12月9日)