第15回いっしょに読もう!新聞コンクール 最優秀賞(小学生部門)村上正真さんへの記者からのメッセージ

  1. NIEトップ
  2. リポート NIEの現場から
  3. 第15回いっしょに読もう!新聞コンクール 最優秀賞(小学生部門)村上正真さんへの記者からのメッセージ

戦争のない世界を生きられるように

 被爆80年を迎える直前、日本被団協(日本原水爆被害者団体協議会)がノーベル平和賞を受賞しました。被爆者の平均年齢は85歳を超えています。広島と長崎の両被爆地で最も大きな課題とされているのは、被爆体験をいかに若い世代へ継承していくかということです。その認識はノーベル委員会も同じでした。

 今回、広島市の安田学園安田小学校5年生、村上正真さんが私の記事を選んで考えてくれたことは、まさに被爆体験の継承を現在進行形で体現してくれていることであり、大きな光のように感じました。私たち記者にとっての励ましでもあり希望でもあります。村上さんは「この記事に感謝し、今回選んだ」と書いてくれましたが、曾祖母さんが「選んでくれてありがとうね」と村上さんにおっしゃったのと同じく、こちらからも感謝の言葉を贈りたいと思います。

 闘病中だった記事の池亀和子さんは、胃がんで亡くなる10日前まで、原爆死没者名簿に毛筆で一人一人名前を書き続けました。その名簿が納められているのは、村上さんが毎年8月6日にお参りに訪れる平和記念公園の原爆死没者慰霊碑です。その碑文はこう刻まれています。《安らかに眠って下さい 過ちは 繰返しませぬから》。まさに被爆地の心臓部であり、ヒロシマの原点とも言えます。この名簿に記された高祖父さんも曾祖父さんも、村上さんに体験を話してくれた曾祖母さんも、そして、記事で取りあげた池亀和子さんも、被爆者の思いは共通していると思います。「二度と同じ体験を人類にさせたくない」と。

作品の中に見えた「平和をつくる原点」

 池亀さんのご遺族も、今回の村上さんの最優秀賞受賞を喜んでおられます。この受賞を通して、広島から若い世代の人たちに発信する貴重な機会を得られたことの意味も大きいと思います。村上さんは、この記事を読んだとき「自分の家族のことだ」と思った、と書いています。これは問題を他人事ではなく「自分事」と捉えている証しです。さらに、「この記事を読んで、この名簿の意味を考えることができた。一人一人の名前には、それぞれに人生があって、それぞれに家族があるのだ、と気付いた」とも書いています。これは相手を思いやり、相手の立場に立って一度考えてみるということです。そこには、「平和をつくる原点」とも言えるものが育まれているように思いました。

 村上さんは最後にこう記しています。「この記事を読んで、ぼくは、被爆者の家族として、ぼくにしかできないこともあるのではないかと思い始めた。それは、曾祖母のような被爆者の方から話を聞いて、次の世代へつないでいくことだ」と。そして、「将来自分の子孫が、戦争のない世界を生きられるように、ぼくも今学んで、教えてあげられる人間になりたい」と。これは、還暦を超えた記者である私が、仕事を通してめざしてきたこととまったく同じです。これほど心強いことはありません。村上さんのますますのご成長を心より期待しております。

副島 英樹(朝日新聞社記者)(2024年12月9日)