第14回いっしょに読もう!新聞コンクール 最優秀賞(高校生部門)石川真帆さんへの記者からのメッセージ

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当たり前の日常が一番の幸せ

 かなさんの「喪の旅」の記事を高校生が読んでくださって、「いっしょに読もう!新聞コンクール」の最優秀賞を受賞されたそうです――。そのように伝えると、かなさんは「ええっ!」とたいへん驚かれ、感激されました。そして、「私の話がお役に立てたなんて光栄です」と。

 壮絶な体験を10代の人が受けとめ、自分にひきつけて考えてくれた。お母さんと語り合ってくれた。それは今も妹さんを思って泣いてしまうというかなさんにとって、大きな希望になったと思います。

 「喪の旅」シリーズは、大切な人を亡くした悲しみに向き合ってどう生きていくかをテーマにした随時連載です。くらし面と朝日新聞デジタルで3年ほど続けています。読者のみなさんから体験を投稿していただき、それをもとに取材してきました。だれでもいつか、大切な人とのお別れが待っていますよね。さまざまな体験のお便りがこれまで何百通も届いています。

深い愛情に気がつく

 今年4月、かなさんから届いたメールには胸をえぐられました。「今日、妹の葬儀でした。51歳、クモ膜下出血でした」とありました。

 葬儀の日に送ってくださったメール。どんな思いで書かれたことでしょう。

 ついこの間会った時、元気だった妹。まさか、突然の別れが待っているなんて思いもしません。その衝撃の中、かなさんたちは脳死下の臓器提供を決断したのです。どんなにか重い決断だったか。

 石川真帆さんはこの臓器提供という言葉に心を寄せてくださいました。そこから関心を持って記事を読み、考えを深めていかれたことに、私は敬意を表します。

 かなさんたちが大切な妹の臓器提供を決断したのはなぜか。それはきっと妹さんが精いっぱい生きた、その生き方を尊重し、誇りに思われたからでしょう。そして、必要としている人の中でこれからも生き続けると信じた。妹さんへの深い愛情あればこその決断だったのだと考えます。

 石川さんが「いつ会えなくなるかわからないからこそ、大切な人と過ごす時間を大事にする必要がある」と書かれていますが、そのとおりだと思います。

 いただく投稿の多くに後悔の思いが書かれています。「けんかばかりしていて悔やまれる」「もっと優しい言葉をかければよかった」「早く病院に行かせればよかった」......どうしても悔やんでしまいます。

 私も大切な人を亡くし、一番後悔しているのは「ありがとうと、もっとちゃんと言えばよかった」ということです。亡くなって、どんなに自分がその人からたくさんのものをもらっていたかに気づくのです。深い愛情をもらっていたか。

 交通事故で子どもを亡くした親御さんは以前、こう言われました。

 「いってきま~す」「いってらっしゃい」
「ただいま~」「おかえり」

 このやりとりができることが一番の幸せではないかと。

 石川さんが気づかれたとおりです。当たり前だと素通りしていることが、実は本当にありがたいことなんですね。

河合 真美江(朝日新聞社記者)(2023年12月11日)