第13回いっしょに読もう!新聞コンクール 最優秀賞(高校生部門)神尾惺那さんへの記者からのメッセージ

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受賞者との懇談の様子=2022年12月
17日、ニュースパーク

事実を知ることから始めよう

 今回同行取材をした海洋研究開発機構の研究者が話していた言葉で忘れられない言葉があります。「何千万年も後、海底が隆起した時、地層の断面にプラスチックごみが化石のように残っているかもしれない。私たちの子孫はプラごみから21世紀のことを知ることになるだろう」

 海底約1000メートルで見つかったプラごみは、レジ袋、ペットボトル、バケツ、インスタントラーメンの包装やポケットティッシュの袋など、私たちの生活で目にするものばかりでした。海底から回収されたキャンディーの白い袋には「2015年7月」と賞味期限とみられる記載がありました。以前の調査では、1984年製のハンバーグの袋が見つかった例もあります。原型をとどめたバケツには、中国語が書かれていました。海洋研究開発機構の調査によると、大きさ5ミリ以下となった「マイクロプラスチック」が、太平洋から北極海に年間約180億個流入していると推定されています。

行動へと突き動かす力とは

 神尾さんの作文の中に「何事も『知る』ことなしには行動できない」という文章がありました。海底の実態は、私たちが見ることや知ることが困難な場所で、知らないことがたくさんあります。

 私たちができることは、事実の「断片」を知り、想像することだと思います。「プラごみはどこから来てどこへ行くのだろう」「将来はどのような影響が出るのだろう」。海の向こうの国に住んでいる人たちや、将来の子孫たちのことを思うとき、空間と時間を超えて想像できる力が、私たちを「行動」へと突き動かすのだと思います。

 海洋研究開発機構の研究者はいつも水筒を持ち歩いていました。私はこの取材をした後、マイボトルを持つようになりました。事実は、想像力を喚起し、人に行動変容をもたらします。

 私はエベレストのベースキャンプに取材に行ったことがあります。山頂付近には「イエローバンド」と呼ばれる1億年以上前の地層があります。エベレストは以前、海底にあり、地層から海洋生物の化石が見つかっています。遠い未来、プラごみが、私たちが今生きている時代を象徴する化石とならないようにどうしたらいいのでしょうか。一緒に事実を知ることから始めていきたいと思います。

澤野 林太郎(共同通信社記者)(2022年12月12日)