新聞・学校図書館を活用し読解力向上――大阪NIEセミナー

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 第72回大阪NIEセミナー(大阪NIE推進協議会主催)が2021年11月27日、オンライン形式で開催され、大阪府内の教員やNIE関係者ら計21人が参加しました。

 内容は2部構成で行われ、第1部は講演、第2部は実践報告でした。その取り組みを紹介します。


★ 第1部 講演「新聞の読書面の作り方」
        朝日新聞大阪本社 編集局長補佐 吉村千彰 氏

 朝日新聞の読書面は、「土・日に書店に来てほしい」との出版界からの要望もあり、毎週土曜日に掲載。奇数週は4ページ、偶数週は3ページとワイドな紙面でたっぷり読むことができます。主に新刊・新作本を紹介する「書評」がメインで大きなスペースをとっていますが、「ひもとく」「売れている本」「みる」など、各コーナーから様々な本の魅力を知ることができます。読者を書物の世界に誘い込んでくれる「書評」は、それ自体が一つの作品。本好きの方にはたまりません。元編集長の吉村氏から、4年半の経験をもとに、ふだん知ることのない興味深いお話をおうかがいしました。

「書評」のつくり方

 最初に「荒(あら)選び」。書評で取り上げる本を検討する「書評委員会」に出す本を選ぶ作業から始まります。新刊が主な対象。出版社や著者から献本されたもの、書店に入荷されたばかりの本、記者個人が買ってきた本などから100冊を選びます。

「書評委員会」で検討

 書評委員会は隔週開催。約20人の書評委員が朝日新聞東京本社に集まり、読書面で取り上げる本の選考を行います(コロナ禍で、最近はオンライン開催)。書評委員は作家、文芸評論家、大学教師など、いずれも著名な本読みのプロ。任期は原則2年。男女比率を公平に(今は女性4割)、年齢層も40代から70代まで、各層を代表する方に様々なジャンルから選んでもらいます。小説や歴史ばかりにならないよう、政治経済や理系、宇宙モノなど、本当に多彩です。出版社が片寄ったりダブったりしないようにも配慮しています。普通の読者でも手が出せるよう5000円以上の本は取り上げないようできるだけ気をつけています。どこまでも読者側に立った気遣いをされていることを知りました。

選考会議は入札制

 選考会議は入札制。各委員が手持ちリストに「花丸・二重丸・丸」のチェックを入れて自分が書評したい本をアピールします。花丸はぜひ書評を書きたい本(1冊)、二重丸はそれに次ぐ本(2冊)といった具合。日本語訳が出る前にすでに外国語の原本を読んでいる委員もおり、「この訳はだめだ」などの理由で手放すこともあるそうです。1000字書評1本、あとは800字書評、400字書評などを組み合わせ、金曜夜に紙面に割り付け、見出しをつけて、土曜日朝刊に掲載されます。「書評」以外のコーナーも充実しており、ニュース・話題になっている本を取り上げ、知識を深めてもらう「ひもとく」、その本が今なぜ売れているのかを考察する「売れている本」、ビジュアル系の本を紹介する「みる」なども人気です。大人にも読んでもらいたいコミック、実用書、ビジネス書、新書も取り上げたり、さらには古典 を読んだ気になれる「古典百名山」コーナーもよく読まれて いるそうです。

「読書欄」で新聞と本の両方を読む習慣を

 講演後、「著者や出版社から、紙面で取り上げてほしいとの売り込みはあるのか」「取り上げた本が他紙と重複したらどうするのか」など参加者からの質問が続き、「読書欄」に対する関心の高さがうかがえました。多くの学校でNIE用の新聞を学校図書室に配置しており、教科指導のみならず読書習慣の育成、図書室活用力などの一環と位置付けてNIE実践している教師もたくさんいます。新聞の「読書欄」は、様々な本と出合う機会を作ってくれます。NIEで新聞と本の両方を読む習慣を身に付けさせたい。そういった意味でも、今回の話は大変参考になりました。


★ 第2部 実践報告「新聞・学校図書館を活用した読解力向上のための取り組み」
                     交野市立第一中学校 前田一恭先生

 交野市立第一中学校は、各学年約100人の中規模校。3年前からNIE実践を始め、大阪府学力向上事業の一つ「学校図書館を活用した授業作り」にも取り組んでいます。

 新聞活用の取り組みとしては、毎週1回朝の時間を使って「新聞の日」を設け、各教師が選んだ記事をもとにワークシートを作成。その後、問題の正解と 各学年の優秀作品を掲示するなどし、読解力の向上を目指しています。

 前田先生は新聞の利点を、①社会の様子を学ぶことができる、②社会に発信する ことができる、③社会とつながることができる――と指摘しています。

 学力向上事業(=SE推進事業)にも取り組んでおり、そこでは学校図書館を大いに活用しています。学校司書(学びあいサポーター)からの様々な支援に助けられ、生徒たちの図書委員活動も活発になり、読解力向上の効果が出ているそうです。

 この「SE事業・新聞活用・読解力向上」の取り組みを融合させた、3年社会科公民「基本的人権」の単元学習の実践例も紹介されました。課題は「2030年に向けて、私たちが大切にしていくべき基本的人権についての意見文を書こう!」。そのために調べる手段として、図書館で書籍や新聞記事、およびタブレットを活用しています(写真)。学校司書に作成してもらった「調べ学習リンク集」(パスファインダー)で効率のよい調べ学習が可能になり、また交野市が 導入しているタブレットの学習支援ソフト「ロイロノート」を使用することで、 安全でスムーズなサイト検索が可能になっているそうです。

 授業後のアンケートでも「調べ学習で参考資料としてよく活用したものは?」には、「本を利用する33%、タブレット16%、両方42%、その他9%(授業プリント・教科書)」と、書籍・新聞とネットの両方を使った生徒が一番多く見られたそうです。

 成果についてはアンケートで、①ほとんどの生徒が調べ学習に意欲を持って取り組んだ、②自分の考えを他の人に説明したり、文章化することに抵抗を感じることが少なくなった――との結果が出ています。図書・新聞記事やタブレットなどを繰り返し活用することで、情報活用力や読解力が確実に向上していると思われる、とのうれしい成果も。一方で課題は、家で読書する生徒、新聞を読む生徒は相変わらず少ないこと。これからも学校と家庭が連携して、継続して取り組むことが必要と思われる、と話しました。

徳永祥子(NIEアドバイザー)(2022年3月25日)