第12回いっしょに読もう!新聞コンクール 最優秀賞(小学生部門)佐藤せり花さんへの記者からのメッセージ

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前向きな言葉を届けよう

佐藤せり花さん、このたびは「いっしょに読もう!新聞コンクール」小学生部門の最優秀賞受賞、誠におめでとうございます。現地で直接、せり花さんにお会いしてお祝いの言葉をお伝えしたいですが、新型コロナウイルス禍の事情で、会場にお伺いできないことが残念です。

せり花さんは、遠く離れた岩手県の出来事に関心を寄せてくれました。記事を目にとめて読んでくださり、ありがとうございます。とても嬉しく思います。

全国に広がれ、思いやりしおり活動

この記事は、今年5月に岩手県奥州市の衣川地区にある衣川中学校でボランティア活動に取り組む生徒や先生を取材して書きました。「思いやりしおり」はコロナ禍で暗い気持ちになっている地域の人たちにエールを送る狙いで生徒と先生が一緒に企画しました。衣川中のしおりは「大事に使いたい」「心が温まる」と多くの人に喜んでもらい、読書のときに大事に使っている人もいるそうです。

衣川中はそのほかにも、地域の高齢者へ暑中見舞いのはがきを送りました。新型コロナウイルスによる差別や誹謗中傷をなくすため、感染者に寄り添う気持ちを示す「シトラスリボン」を手作りして地域の診療所などに送る活動にも取り組みました。

せり花さんは、この記事を選んだ理由として「社会を見ても自己主張や論破することがもてはやされ、自分勝手でがっかりするような言葉の世界。そんな中、思いやりあふれる言葉を川柳に込め、しおりを通じて地域の人に届けているこの記事にひかれた。活動に共感した」と書いています。

振り返ると、私も取材でこの思いやりあふれる川柳に巡り合い、温かい言葉が並ぶ光景に惹きつけられ、心が温まったことを覚えています。

記事で紹介した川柳のほかにも、素晴らしい作品がたくさんあったので、いくつかご紹介します。「あいさつが 手と手をつなげる 合言葉」「あいさつで みんなの絆 広げよう」―。相手を思いやる言葉を聞くと「体中があたたまる」と感じたせり花さんのように、衣川中の生徒たちも、あいさつが持つ言葉のエネルギーを信じて作品を書いたと思います。「コロナでも 笑顔の花は 絶えないよ」という川柳もありました。このような温かい言葉に触れるだけで、コロナ禍で悲しい気持ちになった時でも、読んだ人を元気づけられると思います。

思いやりしおりは近隣市町村の図書館などを通じて多くの人に届きました。コロナ禍で自宅にいる時間が長くなることを逆手に取り、「読書時間を彩る」というアイデアも素晴らしいです。思いやりしおりを作る活動が、奥州市にとどまらず、東北各地や日本全国へも広まればいいなと思っています。

言葉が持つ力を実感

作文の中で触れている「言葉の持つ力」について、新聞に興味を持ってくださったせり花さんに私から伝えたいことがあります。

新聞記者は、取材で多くの人に会い、多くの言葉に触れる仕事です。私が新聞記者の仕事を始めて1年目の時、会社のある先輩が、このような言葉を掛けてくれました。「取材という仕事自体は大変だけれど、取材先の人の言葉を聞くことで、元気やエネルギーをもらうことが多いよ」。

先輩の言葉を聞いて1カ月ほど経ってから、意味を実感する出来事がありました。取材をしていると、企画したイベントを成功させようと奮闘する人や、自分の作品を誰かに届けたい人、仕事を一生懸命に頑張る人などに出会います。そのような人たちがインタビュー中に発する言葉はとても力強く、エネルギーに満ちあふれています。そのエネルギーを直接受け取ると、自分も頑張って記事を書こうという気持ちが湧いてきます。「エネルギーをもらう」という先輩の言葉を理解しました。

新型コロナウイルスの世界的な感染拡大がいつまで続くか分からず、不安を感じている人が多いと思います。イライラしたり、攻撃的になったりすることもあると思います。せり花さんは作文で「コロナ禍で負の感情になりがちだ。負の言葉を発したら、同じだけ前向きな言葉を発しよう。衣川中の人達を見ならい、生きるエネルギーを与える言葉をたくさん発する人間になりたい」と書いています。記事を読んでそう考えてくれたことをとても嬉しく思います。

言葉は人にエネルギーを与えることができる一方で、言葉によって傷ついてしまう人や悩んでしまう人もたくさんいます。この記事を読んでいただいたことをきっかけに、せり花さんにはこれからもぜひ、学校や地域で前向きな言葉をたくさん発して、周りの人をもっと明るくするような生活を送ってほしいと思います。

大橋 秀喜(岩手日報社記者)(2021年12月25日)