第11回いっしょに読もう!新聞コンクール 最優秀賞(小学生部門)・伊藤穂乃花さんと出会った記者の思い

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20年12月23日の表彰式で表彰状を受け取る
伊藤さん(右)の様子(中日新聞社提供)

問題意識の共有が記者の励みに

 障害のある先生 採用の壁

 取材前に聞いていたのは「視覚障害のある大学生が小学校の先生になるために頑張っている」という情報だけでした。「頑張っている大学生を記事で紹介したい」という思いで取材を始めたのですが、調べていくと、視覚障害のある先生というのは全国でも、ものすごく少ないことが分かりました。


 視覚障害のある先生でつくる団体によると、特にクラスの担任を受け持ち、体育も教える可能性のある小学校には「ほとんどいない」ということでした。さらに調べると、採用試験を受ける障害者の人数自体が少ないこともあるのですが、受け入れる側の教育委員会や学校も積極的ではないという話を聞きました。教育実習の受け入れ先を探すのにも苦労するそうです。


 実際、都道府県などの教育委員会で、障害者の法定雇用率2.4%を達成しているのは4割を下回っています。厚生労働省によると、昨年6月時点で愛知県は1.14%。都道府県教委の中で3年連続で全国最下位でした。


 記事に盛り込めなかったのですが、取材の中で視覚障害のある先生にも話を聞きました。自らの仕事の様子をいきいきと語ってくれたのがとても印象的で、仕事を進めるうえで課題はあっても、障害があると先生が務まらないなんてことは全くなく、受け入れる側の問題なのだと痛感しました。


 伊藤さんの言葉から感じた希望


 記事で取り上げた学生の杉浦有紀さんは、「障害を直視しないといけなくなった」という高校時代の心の葛藤や、どうして小学校の先生を目指すのかなどを丁寧に話してくれました。杉浦さんのまっすぐな思いや熱意に心を打たれ、「子どもたちに私を通して『自分とは違う人』への理解を深めてほしい」という言葉にも深く共感しました。


 杉浦さんが頑張る姿と彼女の思い、そして社会の側の問題点を読者に伝えたいと思って記事を書いたところ、思いがけず、小学5年生の伊藤穂乃花さんが目に留めてくれました。感想文を読ませてもらうと、記事をきっかけに考えを深め、問題意識を共有してくれたことが伝わってきて、とても励みになりました。


 伊藤さんは将来、学校の先生を目指しているそうです。在籍する小学校であった贈呈式で、どんな先生になりたいのか聞くと「一人一人の子と真剣に向き合い、心を通わせたい。いつか杉浦さんと一緒に働きたい」と答えてくれました。


 現状を一足飛びに変えるのは難しいかもしれませんが、伊藤さんの言葉に将来への希望を感じました。長時間の取材に応じてくださった杉浦さん、記事に目を留めてくれた伊藤さんに感謝したいと思います。

河原 広明(中日新聞社教育報道部記者)※肩書は執筆当時(2021年2月17日)