兵庫県NIE推進協議会・高校NIE公開授業報告

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興味のある記事について発表する生徒ら

 NIE活動の一環で、学習支援アプリ「ロイロノート・スクール」を活用し、関心のある新聞記事を選ぶ公開授業が11月24日、神戸市垂水区の愛徳学園中学・高校で開かれた。高校2年生20人が、各自で設定したテーマに関する2020年の「3大ニュース」を選び、自分の考えとともに発表した。

 兵庫県NIE推進協議会の主催。同校は2020年度から日本新聞協会のNIE実践指定校に認定されている。

 生徒たちは最近の記事からコロナ禍や児童虐待、世界人口の減少など、興味のある記事を「ロイロノート・スクール」で整理。シンキングツールで重要度や関心度を分析し、順位を付けて4人ごとのグループで発表し合った。

 西村友希さんは「記事の分類・整理を通して自分の考えを整理でき、自分の関心も新たに発見できた。他者の発表に対して意見を述べ、さらに意見を考えていくのは楽しく、社会に出てからも役立つと感じた」と話した。

 公開授業には教育関係者ら約30人が参加した。新型コロナウイルス対策としてテレビ会議アプリ「Zoom(ズーム)」でも公開し、県外から4人が参加した。

 生徒の一人、臼杵梨々菜さんが「新聞と私をつなげてくれた授業」と題して感想文を書いてくれた。臼杵さんの感想はこちら。

 そのほかの生徒の感想はこちら。

三好 正文(兵庫県NIE推進協議会事務局長)

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〈NIE公開授業を終えて〉

 26年前、「国語表現」を担当して以来、新聞を活用し、自らスクラップした記事を「週刊国語表現」と名付けて週に一度、生徒に配布し、記事中から漢字テストを行ったり、記事にコメントを書かせたりした。7年前より、本校は生徒が将来、自ら考え、人に奉仕し、充実した人生を歩むための独自のライフキャリア教育「Rainbow Program」を展開し、そのためのツールとしてiPadを導入したり、校内のWi‐Fi環境を整えたりした。それ以降、iPadや学習支援アプリ「ロイロノート・スクール」などを使うことで生徒のICTスキルは飛躍的に向上し、私も授業でICT機器を使うようになった。今秋からは中学・高校とも生徒1人1台ずつiPadを持つ環境が整った。

 想像もしなかったコロナ禍の中、本校は2020年度、ロイロノート・スクールを使って「愛ちゃんねる」と名付けたオンライン授業を展開した。オンラインと対面の両方で展開してきた授業のまとめとして、公開授業では「新聞を読み、ICT(iPadとロイロノート・スクール)を活用し、自分の考えをまとめ発表する」をテーマに単元を組み立てた。

 iPadの使用が目的にならず、普段行っている授業の流れで展開し、生徒の考えを引き出せるよう心がけた。「自分の選んだテーマに沿って、3大ニュースを考えて発表する」取り組みで、まず新聞を読み、ロイロノート内の「シンキングツール(思考ツール)」を使って、選んだ記事の分析と意味付け、順位付けを行った。

 そして「なぜ、その順位にしたのか」の理由をiPad上でまとめ、4人のグループごとに、互いにタブレットの画面を見せてプレゼンテーションし、質疑応答を重ねた。終了後、それぞれの作業に戻り、他者の意見も参考に自分の考えをまとめ、ロイロノートの提出箱に提出した。

 生徒は、新聞から取り出した情報を他の情報とつなげ、意味を見いだし、他者とのやり取りを通して自分の考えを作り出していた。公開授業の場でも、臆することなく授業に取り組む生徒の姿が頼もしく、私も授業をしつつ楽しく感じられた。

 これからも生徒から学びつつ、もっと楽しく表現でき、もっと深く考えることができる授業を目指したい。

米田 俊彦(愛徳学園中・高校教諭)

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〈愛徳学園中・高校NIE公開授業 参加者の感想〉

◇中川 透・兵庫県立川西明峰高校校長(兵庫県NIE推進協議会特任アドバイザー)
 NIEを実践する上で、悩ましい課題がいくつかある。
 (1)新聞を読む習慣の欠如
 (2)新聞の膨大な情報量
 (3)全員に配布する新聞の確保
 これらの解決のヒントとなるのが、「週刊国語表現」の発行である。1週間の記事からいろんなジャンルのものを切り抜き、プリントにして毎週配っている。授業者のフィルターを通した資料ではあるが、限られた時間で授業を展開する上では大変有効なツールである。米田先生手作りの資料は、生徒の視野や興味・関心を確実に広げていることがうかがえた。
 愛徳学園では6年前から学習支援アプリの「ロイロノート」を全校で導入し、すべての教科・科目で活用しているという。先述の「週刊国語表現」はロイロノートでデータ配信するので、生徒はそれらの記事を自由に切り取って添付することができる。以前のものもアーカイブとなっているのでいつでも取り出せるのだ。これからはこうした授業がスタンダードとなる日が来るのではとの思いも抱いた。
 この授業の年間計画は「発表する」ことに力点が置かれている。本時でも、自分が選んだ3大ニュースを4人のグループ内で発表し合う時間があった。授業後の意見交換会での、「アウトプットすることで情報が知識となる」という米田先生のことばが印象的であった。

◇福田 浩三・兵庫県立伊川谷高校教諭

 新聞の活用というアナログに思える授業を想像していたが、その授業内容はiPadによるロイロノートを活用したデジタルな授業であった。授業で鉛筆やノートを一切使わず、その分、生徒は思考に費やす時間が増え、50分の授業にかかわらず非常にテンポよく授業が進んでいた。新聞の活用+ICTの効果的活用という二面を一つの授業で見ることができた。
 授業の最後には、生徒同士で班内においてプレゼンテーションを行っていた。人に話すためにはあらかじめ自分の頭の中でよく考える必要があり、それを聞いて質問するためには人の発表をしっかり聞く必要がある。このサイクルが非常によい感じで回っていた。
 意見交換会では、新聞以外にウェブからの情報収集の可能性について質問があった。そこで出た「ウェブを使うと生徒は答えを取りに行ってしまう」という意見に共感するところがあった。
 本校も2021年度から本格的にNIEの活動を行っていく予定であるため、今回は実践指定校の活動を見させていただき、とても多くを学ばせていただいた。

◇ 岩橋  達彦・兵庫県立尼崎北高校教諭

(1)授業に集中している
(2)情報機器にたけている
(3)さまざまな知識を習得している
 情報収集時には一言もしゃべらなかった生徒たちが、発表時にはにぎやかに話し出す。普段から発表に慣れている様子がうかがえ、自分の言葉で語り合う。聞き手は傾聴し、話し手に安心感を与えながらも、知識を吸収する。
 皆がiPadを使いこなし、展開の速さに慣れていた。そんな中、彼女たちは情報を共有し合いながら、発表者の気持ちも共有し合う。対面ならではの温かみがそこにあり、この間の切り替えがとても早い。
 きっと、毎回の発表から、さまざまな知識を吸収しているのだろう。終わってから生徒に質問してみると、瞬時に答えが返ってきた。その言葉から、新聞をかなり読み込んでいる様子もうかがえた。
 この完成度の高い授業に驚きを隠せない。

◇岸本 佳子・産経新聞社神戸総局長
 今回初めて、NIE公開授業を見学しました。新聞と、ロイロノート・スクールという授業支援アプリがどのように融合するのか、非常に興味がありました。
 正直なところ、難しいのではないかと思っていたのですが、生徒たちが、すいすいと記事を整理し考え、発表する様子に感心しました。同時に、自らの感覚の古さを反省しました。考えてみれば、例えば座標軸を用いて記事分類しようとすれば、記事を読んで理解し大意をつかむ必要があるわけです。新聞を活用した学びはデジタルツールによって一層深めることもできるのだろうと期待します。
 今回、Zoomでの視聴でしたが、こちらの機器の問題なのか、音声が聞き取りにくく、生徒たちの反応などがよくわからなかったのが残念です。

◇山本直樹・岡山県NIE推進協議会事務局長(山陽新聞社読者局NIE推進部長)

 愛徳学園中・高校の公開授業は、タブレットを活用して紙面を取り込み、分類して重要度を考え、グループでプレゼンまで行い合う、濃密な内容だった。それぞれの過程で、読解力や分析力、価値判断力、発信力を育てる、素晴らしいNIEになっていた。生徒たちは、普段から新聞に接しているためかニュースを読み取る能力が高い上に、タブレットの使い方も非常に速く、習熟度に驚かされた。
 オンラインでの公開だが、定点カメラに加えて自由に動くカメラで生徒の様子を見ることができた。臨場感があり、タブレットの操作まで詳しく見て取れた。今後、岡山でオンライン公開授業を行う際の参考にしたい。
 残念だったのは音声。グループ内のプレゼンで、他の話し声などが混ざり合って発言者の声が聞き取れなかった。オンライン用のマイクを用意するなどの改善が必要ではないだろうか。
 全体的には、10月、淡路市の小学校であったオンライン公開授業に比べて、視聴状況が格段に良くなっていたと思う。関係の皆さまのご努力に敬意を表したい。

(2020年12月23日)