第10回いっしょに読もう!新聞コンクール 最優秀賞(高校生部門)・遠藤はなさんと出会った記者の思い
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表彰式で対談する遠藤さん(左)と吉本編集委員
自分の考えの変化を楽しむ
年齢も住まいも離れているけれど、共通項がある「同志」に出会えたような...。第10回「いっしょに読もう!新聞コンクール」の表彰式で、そんなうれしい気分を味わった。
高校生部門の最優秀賞に輝いた遠藤はなさんは大分県立大分舞鶴高校の2年生。大分合同新聞に掲載された「新出生前診断」についての記事を選んだ。妊婦の血液を取るだけで、胎児に特定の異常があるかどうかを高い精度で推定する診断技術。産まない選択につながり得るため、倫理面からの議論がある。
当初は「障害の有無によって子どもの生死を決めるのはおかしい」だった遠藤さんの考えは、他の記事も読み、両親の意見を聞いていく中で、変わっていく。どの選択が正解なのかは分からない。でも、子どもの幸せを一番に考えることを忘れずにいよう―。
印象的だったのは、遠藤さんは自分の考えの変化をとても肯定的に捉えている、さらに言えば、変化を楽しんでいるように感じられたことだ。
うん、それは確かに楽しいよね。そう思ったのは、対談で遠藤さんに「新聞ならではの良さって何ですか」と聞かれ、答えている最中だった。
新聞は、個人が瞬時に意見表明できるSNSなどと違い、記者が書き、デスクが編集し、用字や事実関係の正確さを点検する校閲部門など複数のプロが「これを世に出していいか」を考え、非常に手をかけて情報を発信する。そして、自分が書いた原稿にデスクから「このようにしては」と、言わば第二の案が示されたとき、自分の中から新しい、第三の案が出てくる、そうしたプロセスがあることが良い点だと思う、と私は述べた。
人の意見に触れることで自分の考えが揺さぶられ、鍛えられていく。これは、遠藤さんが今回踏んだプロセスとよく似ている。高校生の今からそれを楽しめるとは、素晴らしいことだと思った。
新聞記者という仕事
文章を書くのが好きで、将来は自分の意見を文字で表現する仕事がしたいという遠藤さん。式の後、遠藤さんのお父さんから「新聞記者はどうでしょう」と聞かれ、一瞬、答えに詰まった。「成長産業ではないです...」
そして、こう続けた。「でも、世の中を良くするにはどうすればいいか、なんてことを仕事として真面目に考えていられる。幸せな職業だと思います」
遠藤さんの社会人デビューには、恐らくまだ数年ある。記者の仕事がその時点でも、魅力的なものでありますように。
吉本 明美(共同通信社科学部編集委員) ※肩書は執筆当時(2020年1月30日)