第10回いっしょに読もう!新聞コンクール 最優秀賞(小学生部門)・清武琳さんと出会った記者の思い

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表彰式で対談する清武さん(左)と宇多川記者

新聞が支える希望の物語

 医療技術が発達した現代においてもなお、長い時間を病院で過ごさざるを得ない子どもたちがいる。入院しながら、自身の命と向き合う、重い病気の子どももいる。そんな子どもたちを支える仕組みがより多い社会になれば――。そう思いながら、病院に常駐して病児の闘病に付き添う「ファシリティードッグ」の取材を続けてきた。


 今回、小学生部門最優秀賞を受賞した清武琳さんが題材として選んでくれたのは、何度も書いてきたファシリティードッグの記事のうち、約9年間にわたり神奈川県立こども医療センター(横浜市)で活動してきたゴールデンレトリバー「ベイリー」の引退を伝えた記事。ベイリーを生きる支えの一つにしてきた親子を目の当たりにしてきた私にとっても、思い入れのある記事だった。


 自分の書いた記事、撮った写真がきっかけになり、誰かが前進する。記者にとって、これほどうれしいことがあるだろうか。私の記事も、遠い九州の、一人の少年の心に届いた。受賞の一報を受け、私はまず、うれしくて仕方なかった。そして、感想文を読ませてもらい、心から驚いた。単なる「感想」を超え、主体的に行動した「手記」に近かったからだ。


想像超える「手記」


 清武さんは生まれつき背骨が左右に曲がる脊柱側湾症を患い、入退院を繰り返している。いわば、ファシリティードッグに支えられる側の「当事者」である。記事を読み「自分が入院している病院にもベイリーのような犬がいてくれたらどんなにいいだろう」という当事者感覚からスタートし、ファシリティードッグ導入を目指して病院とかけ合ったり、入院中に意見を集めたりした。まだ実現には至っていないが、「この記事と出会って、ぼくの新しい挑戦が始まった。これからも、ファシリティードッグの導入のために、ぼくのできることはないか、考えていきたい」と書く。


 恥ずかしながら、私はこの記事を、子どもが読むことまで想定していなかった。大人が読みファシリティードッグの存在を知ることで、前述したように、困難な状況にある子どもたちを支えられる社会になれば、と思っていた。だが、当事者である子どもが、記事を読むだけにとどまらず、これだけの行動を起こし、それを感想文という形で伝えていた。なんとたくましく、力強いのだろう!


清武さんありがとう


 表彰式の会場で初めて対面した清武さん。紺色のジャケットに、胸元には赤い受賞者用のリボンをつけ、緊張した面持ちだった。NIE関係の大勢の大人たちに囲まれ、緊張して当然である。それでも、受賞者と記事執筆者である私との対談では、「記事を書くときに、どんなことに気をつけて記事を書いているのですか?」などと大事なポイントをしっかり質問してくれた。


 表彰式の後、同行されていたご家族から、また入院が迫っていると聞いた。病院で過ごす時間を支えてほしい、という思いの切実さに、改めて気付いた。そして、私も記者としてできることを探しながら、応援していきたいと思った。


 審査委員長の小原友行・福山大教授は、清武さんの感想文について、「いろんな苦しいことや悲しいことがあるが、それをより良い希望に変えていく、苦しさから希望の物語を作り出そうとチャレンジしたことが、審査員に感動と共感を生んだのではないか」と講評した。「新たな希望の物語を作り出していく、それを支えていく新聞でなければ、そういう新聞であったら未来は開かれている」とも語った。聞きながら、新聞記者の存在意義を改めて確認することができた。


 記者としての喜びと気付きと、たくさんのプレゼントをもらった気持ちです。ありがとう、清武さん。

宇多川はるか(毎日新聞社統合デジタル取材センター記者) ※肩書は執筆当時(2020年1月30日)