第9回いっしょに読もう!新聞コンクール 最優秀賞(中学生部門)・道源琴乃さんと出会った記者の思い

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表彰式で対談する道源さん(左)と大広記者

まっすぐな瞳に力をもらう

 「企業にとって女性はお荷物なのだろうか」。中学3年生の道源琴乃さんが私の記事を読んで、そんな疑問に行き着いた。ただ「かわいそう」と感じるだけではなく、父親の大樹さんと話し合いながら、根底にある問題に思いを巡らせてくれた。そのことが、とてもうれしかった。


 記事は、胎児の死亡を告げられた妊娠中の看護師や小学校教諭が「人手不足」などを理由に、亡くなった子を取り出す処置を受けるまで数日間、仕事を休めず、普段と同じように勤務したという体験談を中心にしたもの。妊娠した女性の働き方について考える連載「妊娠と仕事」の一つだった。


 琴乃さんが抱いた疑問は、働く女性なら一度は考えたことがあると思う。特に妊娠中は、個人差はあるが、体調不良で仕事に制約が出てしまうことも珍しくない。だが、妊娠中の労働者に対する制度は、出産後と比べて手薄で、配慮が行き届かない職場が多い。そのため、多くの妊婦が思い通りに動けない自分を"荷物"と感じ、「なんとかしよう」と無理を重ねる。過労が引き金とみられる流産や死産も少なくない。


反響を呼んだ連載


 こうした現状をどうするのか。一人でも多くの人に考えてほしくて、取材を始めた。男性のデスクが後押ししてくれたことも大きかった。女性記者だけで記事にしていたら、働く妊婦以外の目には留まらなかったと思う。

 反響は予想以上だった。

 「私と同じような思いを、これから社会に出る女性にはさせたくない。必ず記事にして社会を変えて」。過労が原因とみられる死産を経験した20歳代の女性から思いを託された。妊婦を受け入れる職場からの意見も多かった。管理職の立場の人は「思いはあっても妊婦を休ませてやることができない」と職場の窮状を訴えていた。「妊娠した従業員のフォローに追われて仕事が増えた」という人は、「妊娠を祝える雰囲気ではない」と苦悩をつづっていた。

 「社会全体で対策を」。寄せられた反響に応える形で、連載は続いている。


若い読者の感想を初めて聞いて


 昨年12月15日の表彰式で、琴乃さんと話す機会をいただいた。取材を始めてから30人以上の当事者に話を聞き、さまざまな立場の人に意見を求めたが、こんなに若い人から感想をもらうのは初めてで、私もとても緊張した。


 「人手不足などという理由で片付けてよい問題ではない。『女性は妊娠するから使いづらい』なんて考えは、絶対に許してはいけない」。琴乃さんの感想文はそう締めくくられている。当日も「私たち(の世代)も一緒に、世の中を変えなくちゃ」とはっきりと話していた。


 彼女が大人になった時、世の中はどう変わっているだろう。読者からの声に耳を傾けながら、女性が自分自身を「お荷物」と感じることがないような未来を願って取材を続けたい。琴乃さんのまっすぐな瞳から、また一つ、取材に向かう力をもらえた気がしている。

大広 悠子(読売新聞東京本社社会保障部記者)「新聞研究」2019年2月号掲載 ※肩書きは執筆当時(2019年3月22日)