第9回いっしょに読もう!新聞コンクール 最優秀賞(小学生部門)・橋本隼人さんと出会った記者の思い

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表彰式で対談する橋本さん(左)と近藤記者

児童の発信で世界は変わる

 小学生部門最優秀賞を受賞した福井市宝永小5年、橋本隼人君が題材にしてくれたのは、福井県内で発覚した犬猫大量繁殖場「子犬工場」の問題点を解説した「子ども新聞」の記事。「子犬工場」問題を巡っては昨年3月の初報以降、福井県内ではさまざまな動きが出ていた。「工場」を指導監督する立場の県に厳正な対応を求める署名活動や、県内資本ペットショップの生体展示販売取りやめ、里親を探す譲渡型保護猫カフェのオープンなどだ。命を考える道徳の授業を行う学校もあった。


 NIE活動の中で関連記事を取り上げる中学・高校生がよく見受けられた。橋本君が題材にしてくれた解説記事は、子どもたちに一連の報道の根底を流れる「命のモノ扱いが問題」ということを考えてほしいと執筆したもの。Q&A形式で子どもたちにもわかりやすくまとめたつもりだ。

 橋本君は解説記事を読んで家族で話し合った。「ペットはプレゼントに買ってもらう『もの』じゃない。大切な命。犬を飼うなら、きちんと世話ができると両親に認めてもらえるよう自分のことをしっかりやりたい」とまとめてくれた。


感想文が生んだ新しい「動き」


 「伝える」ことが本分の新聞記者にとって、「伝えた」ことで個々人が考えを深めたり、議論を呼んだりして、なんらかの「動き」につながることはこの上なくうれしいことだ。地方紙では大小さまざまな動きにつながることが実感できる実例が少なくない。ちょっとした催しの予告でも「今年は人がいっぱい来てくれた。記事のおかげや」と喜んでもらえたり、市役所の業務を批判する記事が理解され「市民の利便性を考慮する」と改善につながったり。今回の最優秀賞は、子どもたちにこそ考えてほしいと願っていた取材班にとって「狙い通り」以上のこと。橋本君は受賞を「跳び上がるほどうれしい」と言ってくれたが、取材班の私たちも「跳び上がるほどうれしかった」。


 橋本君の感想文はさらに広がりを見せた。記事内で解説してくれた動物愛護活動家でもある女優杉本彩さんが「本当に感動した」とコメントを寄せ、感想文を「クリスマスにペットを買わないで」キャンペーンに採用したのだ。安易な飼育放棄につながるペットの衝動買いがなくなるように訴える啓発動画で、杉本さんが思いを込めて朗読している。フェイスブックやユーチューブで公開するとすぐに合計10万近い再生回数に達した。新しい「動き」につながったことは橋本君にとって大きな経験になったはずだ。


 「子犬工場」問題に対し、杉本さんらは5年に1度の動物愛護管理法の改正に期待をかけるが、先行きは不透明だ。一方で橋本君は「命のモノ扱いはおかしい」と考え、自分の言葉で発信してくれた。そうした子どもたちが増えれば、大人も現状に疑問を抱くようになるはず。法規制せずとも「子犬工場」は立ちゆかなくなる。一人の児童を通じた記事の広がりで世界は変わる。願いは確信に変わった。

近藤 洋平(福井新聞社社会部記者)「新聞研究」2019年2月号掲載 ※肩書きは執筆当時(3月22日)