第8回いっしょに読もう!新聞コンクール HAPPY NEWS賞・岩田凜咲さんと出会った記者の思い
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表彰式で対談する岩田さん(右)と最上記者
身近なニュースの大切さ
フェイスブックやツイッターなど、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)の発達・浸透に伴い、誰もが情報を発信できる時代が到来した。それによって、報道機関が取材し、ニュース化する情報の価値は相対化され、人々の心に届きにくくなったように感じる。だからこそ、私たちは、読者にとってより身近であることを求められ、以前にも増して地域性を意識した取材活動の重要性が高まっている。
受賞作の題材になった記事は、毎日新聞和歌山県版の連載企画「輝集人(きしゅうじん)」で、県内のさまざまな分野で活躍している人を紹介している。私はその中で、和歌山市の交通指導員として半世紀に渡って通学路に立ち続け、夏休みに交通安全紙芝居も披露している男性(78)を取り上げた。
岩田さんは、作文で「家におさけをはいたつしてくれるおじさん」が交通指導員だと知った驚きをつづった。記者について「いろんなすてきな人に出会える仕事だ」と思い、「わたしも輝集人にのれるように、何かに一生けんめいとりくんで輝く人になりたいです」と結んだ。
予想外だった読者からの反応
岩田さんは、知り合いの写真入りの記事を見つけたことで、「普段はテレビ欄と天気予報くらいしか見ない」新聞を、難しい漢字と格闘しながら一生懸命読んでくれたという。こうした地域色の強い記事について、小学2年の女の子が家族と話し合い、自分なりの感想を持ってくれたことがとてもうれしかった。授賞式の会場で歓談した際に、「子ども向けの新聞を読んでみたい」と目を輝かせながら話してくれたことが強く印象に残っている。後日、式での様子を男性に電話で報告したところ、「今度お菓子でも持っていっちゃろう」と喜んでくれた。
正直に言えば、取材した男性以外から、記事についての反応をいただくとは思ってもみなかった。県外には届かない記事だからといって取材をおろそかにすることはないが、割り振られた仕事の一つとして淡々とこなしていた部分もあったからだ。今回のコンクールを通じてじかに読者と触れあい、身近なニュースを伝えることの大切さを改めて考えさせられた。
人や地域に寄り添う取材を
若い世代の「新聞ばなれ」が叫ばれて久しく、業界全体でも読者数は減少の一途をたどっている。時代の流れだと言えばそれまでだが、新聞記事は読まれなければ意味がない。もちろん、どう受け取られるかを意識せずに報道し続けなければならないこともあるが、一方で、読んでもらうために、何が「ウケる」のかという視座を持つことも必要だ。例えば、全国各地でネットメディアを展開する「みんなの経済新聞ネットワーク」(本部・東京都渋谷区)は、ローカルニュースに特化することで幅広い支持を受けている。社会を揺るがす大事件や政財界のスキャンダルも良いが、人や地域につぶさに目を向け、寄り添っていくような、地に足をつけた取材をこれからも心がけていきたい。
最上 和喜(毎日新聞社和歌山支局記者)「新聞研究」2018年2月号掲載 ※肩書きは執筆当時(2018年3月1日)