特別支援教育におけるNIE 2015(都立墨東特別支援学校での出前授業報告)

  1. NIEトップ
  2. リポート NIEの現場から
  3. 特別支援教育におけるNIE 2015(都立墨東特別支援学校での出前授業報告)

 平成27年度「子どもの読書活動優秀実践校」として、文部科学大臣賞を受賞された都立墨東特別支援学校は、言語能力向上に力を入れ、「自己表現や伝える力を育てる取り組み」として新聞も積極的に活用しています。
 その一つ、朝日新聞の朝刊1面に毎日掲載されている「しつもん!ドラえもん」のスクラップリレーは4年目を迎えました。専用のスクラップ帳を通じ、生徒たちと先生方の言葉の交流は今も続いています。

 そんな、都立墨東特別支援学校での新聞出前授業についてご報告します。

 新聞出前授業の前は、必ず学校へ伺い、事前に打ち合わせをしますが、今回の打ち合わせの中で、担当の石原陽子先生からこんな事を伺いました。
・生徒同士の会話が一方通行的な会話になってしまっている。
・自分のことを一方的に話し、言葉のキャッチボールになっていかない。

 そこで、基本的な新聞の読み方の説明の後、以下のことを柱に、「インタビューして発表する」授業をすることにしました。
・記者が取材(インタビュー)するうえで欠かせない5W1Hを意識する。
・相手の話を上手に聞く(聞き上手になる)。
・相手の言ったことを意識して聞く。
・発表することで聴く人に伝わる内容をどう作っていくのかを学ぶ。

 出前授業の前日、先生による事前学習(1コマ)と出前授業の告知を行いました。
 また、インタビューにスムーズに移行できるように、「質問を三つ準備」する宿題も出していただきました。
 受講生は中学1年から3年生までの8人です。
 5校時、6校時の2コマを使い以下のような授業展開で実施しました。

■5校時目 「新聞の読み方」
① ウオーミングアップ(20分)
 全員に朝刊を配布し、新聞から一番大きな文字を探すゲームをします。大きな文字(小さな文字も)は広告にあります。新聞には見出しや記事、写真だけでなく広告も重要な要素(情報)であることを伝えます。そのほか、「しつもん!ドラえもん」の答え探しも実施しました。
② 新聞が届くまで(DVD)(10分)
 いま、みんなが持っている新聞はどのようにして届くのか。
 記者が取材し、新聞となって手元に届くまでの映像を見ます。
③ 新聞の構成と読み方&5W1H(20分)
 新聞の1面からレイアウトの特徴を解説します。
 次に、記事一つが「見出し+リード文(前文)+本文(写真や図表あることも)」で構成されていること。その中のリード文(前文)から、取材(インタビュー)にかかせない「いつ、どこで、なにが、どうした、なぜ、どのように」の5W1Hをみんなで探します。

~休憩~

■6校時目「お友だちを取材(インタビュー)してみよう」
④ 「突撃!となりの晩ごはん」の説明
 今回はペアを組んでお互いに「昨日の晩ごはん」についてインタビューする「突撃!となりの晩ごはん」を実施しました。
 (詳しくは「NIEニュース」77号をご参照ください)
⑤ インタビュー(人に話を聞くとき)のコツと教員によるデモンストレーション
 聞き上手になるためのコツを話した後、2人の先生に「良くない例」と「いい例」をデモンストレーションしてもらいました。「いい例」では先生(男性)が自分で夕飯を作って食べたことや材料についても詳しくわかり、生徒も先生も盛り上がりました。
⑥ ペアに分かれ、実践 1回目(それぞれインタビューは3分)
 事前に考えてきた質問に加え、デモンストレーションも参考にしてもらいましたが、なかなかインタビューが進まない様子でした。
⑦ ペア一組に発表してもらう。
 1回目のインタビューが終わった後、ペア一組にどんなことが分かったか発表してもらいました。メモをみると、1、2行しかかかれていません。何を聞いていいか分からなくなってしまったようです。
⑧ インタビューのヒントとアドバイス
 5校時目でお話しした取材に欠かせない5W1Hについて、改めて説明します。
「いつ食べたの?」「どこで食べたの?」「だれと食べたの?」のほか、不思議に思ったところや、面白いところには「なんで?」「どうして?」と突っ込んでインタビューして下さい、とアドバイスします。
⑨ 実践 2回目(それぞれインタビューは3分)
 1回目よりずっと質問が多くなり、突っ込んだやりとりから、笑いや驚きの声がもれてきます。メモ用紙も文字が埋まってきています。
⑩ 全員発表
 一人一人発表してもらい、いい質問やゆかいな返答にスポットを当てるようにしました。
 発表を聞きながら、他の人はどんな質問をしたのか、どんな発表がいいかを学びます。
⑪ まとめ 「いい質問」には「いい答え」
 以下の5点をおさらいし、まとめとしました。
・話を注意深く聞く
・みんなが興味を持ちそうなことを見つける
・分かるまで聞く
・メモをしっかり取る
・「あたりまえ」と思わない
(後半トータル50分)

 5W1Hを意識することで、会話のきっかけを作り、キャッチボールが生まれます。また、注意深く聞くことで、驚きや笑いを引き出し、会話が弾みます。
 あるペアは「何時に食べ終わりましたか?」の返答を聞き、「えーっ!10分で食べ終わったの!?」と盛り上がります。
「ご飯は美味しいですか?」との質問から、「うん。お母さんの作ってくれるご飯はほんとうに美味しいの」「できたてのご飯はすごく美味しい」を引き出したやりとりは、まさに「いい質問」には「いい答え」の実践でした。
 また、インタビューの内容発表は、聞いた内容を組み立てる作業を有し、このことは文章を組み立てていく、書く力へつながる動線と考えます。
 新聞出前授業の実践が、コミュニケーション力やプレゼン力、文章力をアップするきっかけになればうれしい限りです。  

遊佐美恵子(朝日新聞社教育総合本部)(2016年2月23日)