北信越ブロックNIEアドバイザー・NIE推進協議会事務局長会議報告
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授業見学を通して「新聞だからできる!」を再確認
北信越ブロックNIEアドバイザー・NIE推進協議会事務局長会議が11月26日、長野市の信濃毎日新聞社会議室で開かれた。長野、富山、新潟、石川、福井の5県のNIE関係者約30人が集まり、各県の取り組みや情報を共有し、新聞の新たな使い方について意見交換した。
また、出席者は同日、長野市立山王小学校で行われた新聞を教材にした公開授業を参観し、新聞の教材化や、資料としての価値などについて研修を深めた。
(1)はじめに
最初に信濃毎日新聞社代表取締役専務より、「新聞は宝の山である。新聞を積極的に活用してほしい。アドバイザーには、学校現場へのアドバイスのほかに、新聞を作る側にもぜひアドバイスをお願いしたい」という開会の挨拶があった。
続いて、長野県NIE推進協議会・松本康会長(信州大学教育学部教授)からは、「社会科教育は新聞とともに歩んできた。世の中を知るために、新聞を手がかりとして学習が広がっていく手応えを今後も共有していきたい」という挨拶があった。
日本新聞協会NIE専門部会の濱吉正純部会長からは、11月21日に東京・霞が関で行われたNIE教育フォーラムでのパネルディスカッションについて報告があり、新聞の重要性、必要性、実践の継続について確認し合った。
(2)推進協議会報告「NIEの普及を促進するために」
- 長野県では、研究指定校による実践事例発表会の他に、小学校8校、中学校6校、高等学校4校の公開授業、セミナー、県内4ブロックでのNIE研究会が行われている。学校現場では、「新聞だからこそできる」実践の紹介を充実させ、今年度は特に、高校における実践を広げている。具体的には、「(コラム(朝刊・夕刊)の書き写しや要約」「学級通信による啓発」「新聞学習シートの活用」を行っている。特に「学習シート」は、忙しい、教材研究ができない教師にとって、短時間で手間いらず、タイムリーな記事を扱い、5分でできて力がつくというように大変役立つツールである。
- 新潟県では、上越大学や新潟大学でのNIE講座、「新聞記事感想文コンクール(第22回)」、戦後70年をテーマにした「かべ新聞コンクール」を実施するほか、公民館長会で地域NIEやNIE成人講座を行うなど、社会教育におけるNIEの普及に力を入れている。また、県および新潟市の初任者研修に「NIE講座」を取り入れたり、情報交換会を充実させたりしている。
- 富山県NIE推進協議会では、4人のアドバイザーが、全国大会やブロック会議に出席するほか、研究発表会での指導、助言、講評などを行い、NIEの普及に努めている。県では、18歳選挙権の導入に合わせて、高校のNIE活動をいっそう推進していくことが課題であり、高校教員のアドバイザー選定や実践指定校追加を検討中である。高校が手薄である。出前授業で、18歳選挙権について扱うと、生徒の三分の一は否定的。歴史や世の中のことについて10代の関心が低い。様々な意見に接する、読む習慣を付ける、自分で調べるなど、新聞を通してもっと経験させたい。
- 石川県NIE推進協議会では、県内小・中・高校、県教育委員会、市町村教育委員会に実践報告書を配布。実践報告会では、「記事のスクラップが子供たちの探究心の向上につながった」「コラムについて意見を交わすことで、自分で考える力がつき、就職や進学の際の面接対策にも役だった」という報告があった。また、子供新聞にお年寄りからの反響が多いことから、子供たちにわかりやすいことは高齢者にもよいことがわかった。映画の翻訳で知られる戸田奈津子さんの話で、「映画会社から簡単な言葉への転換を求められるようになった。例えば『安堵』→『安心』に」という紹介があった。言葉の衰退は文化の衰退でもある。心の奥行きのない世の中に危機感を持つ。また、NIEの更なる推進にとって、「先生が忙しくてなかなか(NIEに)取り組めない」ことが、悩みである。
- 福井県NIE推進協議会では、実践指定校の選び方を変え、校長会や教育会の協力を得ながら8ブロックでローテーションを組み、決定するようになった。現行の県「教育振興計画」に「新聞活用」がうたわれ、県内すべての小中学校が参加した「新聞を活用した教育研修会」が、毎年開かれている。NIE研究グループでは、全国大会に向け、全県各小中学校より1人ずつ委員を選出して、アクティブラーニング・グローバルスタンダードを取り入れたNIEを研究・実践している。また、全中学生を対象にした「郷土新聞コンクール」も実施。コミュニケーション能力の育成を図るため、4・5年生の新聞を取り上げた単元で、伝える力を高めたり自分の力を信じたりすることを目標にしている。課題としては、研究指定終了後の実践の継続があげられる。
(3)NIE公開授業見学(長野市立山王小学校 5年生 社会科)
- 単元名:これからの食料生産とわたしたち」
- 提示資料:
10/24信濃毎日新聞 にゅうすなぜ?なに?「TPPの概要」
10/6 〃 「TPPで暮らしこう変わる」
11/7 〃 「県産リンゴ4割116億円減」ほか
- 授業の構想:教科書の記述では、TPPに関して「まだ検討されている」という扱いである。現在日本がTPPに参加することに合意したニュースは、新聞などで大きく報道され、関心も高い。これからの日本の食料生産や食料消費に関心が高まっていることを踏まえ、子どもたちにも理解しやすい新聞記事を資料に、これからの暮らしがどのように変化していくかを予想し合いながら、日本の食料生産と私たちの暮らしについて考えさせたい。
- 授業のねらい:TPPの概要を知り、身近な食料への影響に興味を持った児童が、新聞資料を使ってこれから予想される食料生産や食料消費の変化や問題点について考え発表し合う活動を通して、これからの食料生産や食料消費をどうしていったらよいか自分なりの考えを持つことができる。
- 授業のまとめ(児童の感想)
- 国産のものを買って、生産者に喜んでもらおうと思った。
- この学習をして、TPPができてこんなに変わってしまうなんてとてもびっくりした。
- TPPは日本にとってすごく重要なんだなと思った。ぼくが大人になったら、値段が安いからといって外国産のものばっかり買うんじゃなくて、日本のために国産のものも買いたい。
- 安全な方がいいと思った。年を取っている人だけじゃなく若い人にもやってもらいたいと思った。
- みんなが安い方が良いと思って国産の物がなくなったりしないように国で協力できたらと思った。
- 私たち消費者はよくなっても、生産者が困ってしまうし、外国のものは安全かわからないから、より安全な日本のものを買っていこうと思った。
- TPPはいいことだけだと思っていたが、日本産の物を買ってもらえないという農家の人たちの思いがあり、ぼくたちが考えたことが現実になればいい。
- TPPで関税がなくなると、消費者にとっていいことだけど、生産者にとっては、作ったものが売れなくなるので、二つの意見を国が平等にしていくのが一番いいと思う。
- TPPのことはあまり知らなかったけど、新聞などを見ていろんなTPPのことを知り、考えることができた。
- 参観者の感想
- 新聞を使うことで、世の中で起きていることや何となく聞いていることが、社会現象に触れて、ものを考えるきっかけになった。
- 教科書では、一行の記述で終わっているTPPについて、内容の難しさはあるが、子供たちは記事を読んで自分たちの暮らしに関係があることを実感した。
- 困っている子や戸惑っている子がいたが、課題意識がはっきりしたところで4人ずつのグループで互いに交流し合いながら考えを深めることができ、よかった。
- 現在進行形の問題に積極的に取り組もうという教師の姿勢がすばらしい。
- 現在進行形の問題を新聞で取り上げ教材として使う難しさがある。新聞記事は、子供にわかるレベルまで下りていないため、手がかりとなることを具体的に示す必要がある。
- 学習では難しいことへのチャレンジも大事にしたい。子供の咀嚼(そしゃく)力への期待が高まる授業だと感じた。
(4)吉成勝好NIEコーディネーターによるまとめ
- 現場の声を聞くことの大切さ。
- 30以上の都道府県で、教員のNIE研究組織が立ち上がっている。また、福井県では、教育委員会が全面的にバックアップしている。富山県や石川県でもいずれそのような動きになるだろう。
- NIEを推進していく上での悩みとして実践校の継続性がある。熱心な先生の異動によって、あまり取り組まれなくなっていく例がある。いかに持続可能な実践にしていくかが課題。校内に新聞がある環境を作り、広げていきたい。
- 新聞活用の教育課程への位置づけ。次につなげる教育課程の構築。
- NIEの日常化。いつでも、誰でも取り組み、体験できる実践として、「1分間スピーチ」「スクラップ作り」は効果的。また、秋田全国大会で紹介のあった「親子で(家庭で)作るワークシート』などもおもしろい。
- NIEの新しい動きとして、政治の主人公を育てる「主権者教育」や子供が自分の問題として論議する特別な教科「道徳」は、新聞が役立ち新聞が有効であることを示したい。
山王小学校5年生の子供たちの真剣な学ぶ姿に感動し、NIEの推進に向けていっそう知恵を出し合っていきたいと感じたブロック会議でした。
宮原美恵(長野県上田市立豊殿小学校校長/NIEアドバイザー)(2015年12月8日)