新聞を活用したメディアリテラシー

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1.NIEによるメディアリテラシーへのアプローチ

新聞を教材として活用することは目新しいことではありません。では従来の新聞活用とNIEはどこがどう違うのでしょうか。NIEはメディアリテラシーを育成すること、よりよい社会をつくる市民を育てることを目指しています。一般的になされてきた新聞活用との違いとして、以下の3点を挙げることができます。

  1. 新聞の切り抜きを補完的に活用するだけでなく、新聞にかかわるすべてのものを活用の対象としています。新聞というメディアそのものを教材とします。
  2. 同じ出来事に関する記事、あるいは同じ日の紙面について複数の新聞の取り扱いの違いを比較し、読み比べるという活動を通して情報そのもの、情報とのかかわり方について考えることができます。
  3. 教育界と新聞界がタイアップして展開しています。 これまで、「一覧性」「記録性」という新聞の特性、安価であり手軽に扱えること、教材化しやすいこと、活字中心のメディアであるなどから、さまざまなNIEの取り組みが重ねられてきました(注1)。

2.NIEで育てたい力、育てることができた力

NIEの実践者として自身の取り組みの評価、分析を試みたところ、自己学習力、コミュニケーション能力、メディアリテラシー、PISA型「読解力」との関連が見えてきました。

  1. 自己学習力・・・新聞を継続して読むことで、自ら学び考える力を育むことができます。問いや、課題意識を生み、主体的な学びにつながっていきます。
  2. コミュニケーション能力・・・自分だけが知り得た価値ある情報を伝え合うこと、新聞を教室に取り入れることで、風景が変わります。個を生かす場が生まれてきます。
  3. メディアリテラシー・・・NIEによるメディアリテラシーとして、「情報の活用」「比較読み」「情報の発信」「メディアとしての新聞」――の四つの視点を考えています(注2)。
    • 情報の活用:記事のスクラップを目的とするのではなく、新聞を情報活用の基盤とし、「問い」「課題意識」を核に単元を展開します。アートディレクターの佐藤可士和さんの言葉に置き換えれば「他人事を自分事にする」ということです。
    • 比較読み:新聞記事は記者のフィルターを通ったものであることを押さえておきます。各新聞で情報伝達の違いがあることを学ばせます。一面トップ記事や取り扱い方の違いから情報の価値判断についても意識させます。
    • 情報の発信:情報発信を通して、情報の送り手の意識を知ることを目指しています。新聞記事の版建ての違い(「安倍首相辞任」報道の項参照)などから情報創出のプロセスを学ばせます。
    • メディアとしての新聞:新聞の特性を検証することで、その特性をより深く認識し、実生活に役立てようとする意識をもたせたいと思います。他のメディアにはない新聞の機能についても学ばせます。

3.メディアリテラシーを育成するNIEの取り組み

「情報活用」に関しては単元の導入に位置づけることが多いのですが、「比較読み」「メディアとしての新聞」については次のような実践に取り組みました。

  • 単元「新聞エクスプレス NIEの旅」「新聞の特性」についてグループに分かれ検証する。明らかになった「新聞の特性」をアピールする広告を作る。身近な情報源である新聞とどうつきあえばよいかを考える。
  • 単元「文化の背景にあるもの」2001年9月11日の米国同時多発テロを報じる朝刊5紙の比較読みから、各紙のコラム、社説、関連する新聞、ネット情報、文献情報などを読み重ね、情報交流、意見交換などをし、これからの国際社会で自分たちに何ができるかを考え「21世紀に生きる私たちの提言」を発信する。
  • 単元「情報社会を生きる」米大リーグ・イチロー選手のシーズン最多安打記録達成の報道(テレビ、ラジオ、新聞、インターネット)を分析し、「情報」とは何か、「情報」とどう向き合えばよいかを考える。
  • 「情報の送り手体験」情報の送り手体験(俳写・フォトエッセイを書く、新聞記事のリライトをする、ひと欄を書く、記者体験をする)を重ね、新聞というメディアを理解し、第一次情報に触れる。多角的な視点をもつことの重要性を知るなどを狙いに進めた。

4.安倍首相辞任報道から

突然の辞任表明、辞任会見が午後2時からということもあり、2007年9月12日の夕刊は版による違いが明確に出ました。3版→追っかけ→4版を比べることで情報が送り出されるプロセスを知ることができます。

また、翌13日の各紙はトップ記事で安倍首相辞任表明のニュースを伝えています。各紙の見出しを比較し、何に着目しているか、他紙にない見出しの情報を比べるだけでも情報には送り手の意図があり、さまざまな情報が取捨選択され、報道されていることを実感することが可能です。写真、リード、本文、コラム、社説を比べることで、多面的な見方、多角的な視点をもつことの大切さを認識することにもつながっていくでしょう。

紙面の移り変わり

いずれも朝日新聞社提供

新聞というメディアは、だれもがメディアリテラシーについて学ぶことを容易にし、時代を読み解いていくメディア社会の窓を開いてくれます。NIEは、自分、他者、社会との「対話」をはぐくむ、生涯の学びへの水先案内人といえます。

  • ※1小田迪夫・枝元一三編著『国語教育とNIE』大修館書店1998年6月・「NIE実践報告書」他
  • ※2拙稿「メディアリテラシーを育成するNIEの開発」日本NIE学会誌 2007 第2号

参考文献:『NIEガイドブック中学校[国語]編』(日本新聞教育文化財団 2000年3月発行)
参考ウェブサイト:日本NIE学会

(大阪府NIEアドバイザー・植田恭子 2008年4月)