実践指定校実践例 2012年度

時代を切り取るスクラッチ絵画の制作

大阪府立登美丘高等学校(おおさかふりつとみおかこうとうがっこう)

教科、科目、領域

高校(高等専門学校を含む): 芸術
学年 高校(高等専門学校を含む) 2年
報道写真から生み出されたパブロ・ピカソ『ゲルニカ』に学ぶ
美術科学習指導要領3内容A表現(1)「主題を生成すること」を学ぶ。『ゲルニカ』が新聞記事・写真に影響を受け制作されたことに倣い、主題生成から表現への発展を行う。
美術教育における表現力・構想力・描写力などさまざまな要素が新聞から同時に学べるということ
新聞活用学習

時代を切り取るスクラッチ絵画の制作
~報道写真から生み出されたパブロ・ピカソ『ゲルニカ』に学ぶ~

第16時

導入(2時間)
・ パブロ・ピカソ『ゲルニカ』が当時の新聞記事および報道写真の影響を受けて制作された作品であることを学び、視覚的に得た情報を基に自ら考えイメージを整理することの大切さを意識させる。
・ マスメディア(新聞)が美術史に与えた影響を知る。

写真の切り抜き(2時間) 
・ 新聞から取り扱うメインの主題となる写真と記事を選び、切り抜く。
・ ピカソは新聞の報道写真から影響を受けて制作する際に、ゲルニカ空爆の記事とは無関係である複数の記事の写真からもイメージを取り入れて作品の中で関連付けている。これに倣い、その他画面構成に必要となる写真を多数切り抜く。

コラージュ(2時間)
・ 切り抜いた写真を画用紙上に再構成しコラージュする。
・ 裏面には主題の記事を貼り、感じたことや考えたことをワークシートに記入し制作意図を明確にする。

転写(2時間)
・ コラージュ作品のコピーをとり、カーボン紙を挟みスクラッチボード(黒)に転写する。

スクラッチ(6時間)
・ スクラッチボード(黒)とコラージュとを隣り合わせに置いた状態で、写真の明暗に気をつけながら、ニードルを用いてスクラッチで描く。

鑑賞(2時間)
・ 完成した作品の鑑賞会を行い、作品の主題の生成とその表現の過程について振り返り発表する。

◎マスメディアが美術に与えた影響について考える。
◎主題となる写真・記事は、各自が最も印象に残り構想を練りやすいものを選ぶ。
◎単なる写真の切り貼りではなく、記事をよく読み内容を理解しながら、自らの考えや意図を効果的に見せるための構成を練らせる。
◎ スクラッチでは、常にボードとコラージュを隣り合わせに置きながら、写真の白~グレー~黒の光の陰影や濃淡、ものの質感をよく見て表現する。

 生徒は最初、多数の写真を再構成することに苦心していたが、主題となる記事を何度も読み内容を理解し、考えを深めながら制作を進めていた。また、実際に新聞を手に取りそこから一つの作品を作り上げていく行為自体が、手元にある喜びを実感出来、楽しんでいたようだ。カラー写真と白黒モノトーン写真のどちらを使用するかは各自の描写力に応じて選択させた。

 本単元は、作品制作における主題の生成から表現への発展を学ぶことと並んで重要な要素がある。それは、ピカソの『ゲルニカ』制作過程で見たように、マスメディアが美術に与えた影響力の大きさという点である。生徒には、報道写真を入り口に新聞に触れることにより、社会の動きや周囲の様々な事柄に興味関心を持ち、自ら考え追求して行く姿勢を育成していきたい。
 今後の課題としては、やはり新聞は継続性のある記事が多いことから、授業で扱った紙面だけでなくその前後、つまり日頃から読んでいるかどうかが記事に対する理解度や分析力、最終的には作品の完成度に影響が見られたことである。したがって、授業だけのその場限りではなく、生徒の日常生活に継続的に新聞に触れる習慣を付けさせられるかどうかが今後の課題であると考える。

実践者名:大阪府立登美丘高等学校 菊永 真美