実践指定校実践例 2012年度

新聞記事を活用して合意形成のスキルを高める~個人的意思決定から社会的意思決定へ~

千葉県立船橋啓明高等学校(ちばけんりつふなばしけいめいこうとうがっこう)

教科、科目、領域

高校(高等専門学校を含む): 公民
学年 高校(高等専門学校を含む) 3年
第1編現代の政治・第2章日本国憲法の基本的性格および第3編現代社会の諸課題 
新学習指導要領で「言語活動の充実」が求められる今,主権者として必要なスキル(技能)を獲得させる学習方法の工夫を目指す。
教師の側から題材(テーマ)を提示して生徒の問題関心を喚起するが,新聞記事を活用して学習の時期に話題となっているタイムリーな事柄を選択することが重要である。
新聞活用学習

「公民としての資質」を養わせる具体的学習方法の確立を目指し,3年次生の「政治経済研究(学校設定科目・2単位・選択生徒15名)」で実践を行った。

第15時

(1)発表学習:この学習の時期に大きく報道されていた「尖閣諸島の領有権を巡る問題」を扱った新聞記事を各生徒に1つずつ割り当て,その新聞記事の内容の要約および感想・意見を発表させた。これは,新聞記事などの資料により事実を的確に把握した上で「個人的意思決定」を行って,その意思決定の結果を適切に表明するという過程を体験をさせること,社会問題を自身を含む問題として認識させ,日頃の社会問題に対する生徒の興味・関心を高めさせることを目的に行ったものである。(2)ディベート学習:次の「合意形成学習」の段階につなげる視点をもってディベート学習を進めた。今回は「基本的人権」に関する知識の学習の後に「死刑制度の是非」を取り上げた。この学習の時期には,民主党政権になって中断されていた死刑執行の再開が行われたことや裁判員裁判における裁判員の心理的負担感の問題などが報道されており,時事的テーマとして扱ったものである。(3)合意形成学習:この学習の時期に大きく報道されていた日本の原子力政策を取り上げた。「日本は原子力発電をゼロにすべきである」というテーマに対して学校図書館で原子力発電の現状等について新聞や書籍等による調べ学習を通じて各生徒の「個人的意思決定」を行わせた。「原子力発電の是非」についてワークシートを用いて「留保条件」を考えさせた上で,賛成・反対に分かれて合意を目指した討論(対話)を実施した。

今,社会で起こっている事実を新聞等を活用して的確に把握させた上で,その認識された事実をもとに「個人的意思決定」を行わせ,適切な相互の意見表明を経て「社会的意思決定」へと向かわせるにはどうすればよいのかを考え,(1)発表学習,(2)ディベート学習,(3)合意形成学習といった三段階の授業展開を設定した。各段階の目的を踏まえつつ生徒の実情に応じた修正を柔軟に加えながら実践を展開することが求められる。

(1)「自分の中のイメージと当日の時がはるかに違った。自分がこうしようとか,こう話そうとかを考えたことがあまりできなかった」,(2)「回数を重ねるごとに意見のまとまりのスムーズさ,情報の豊富さが増した」,「積極的に自分の意見をぶつけられるようになりたい」,(3)「原発に替わる効率の良いエネルギー開発方法が提案できる」,「確実に安全な何が起こっても壊れないような建設ができる」等の留保条件を考えた。

(1)発表の体験不足や発表スキルの不足により生徒は思ったように発表できなかったといえる。反省点を改善させるため複数回の発表機会を持たせる等の授業計画立案が課題として示された。また発表原稿作成のスキルの不足も見られ,まずは発表以前に原稿作成の指導方法の工夫が課題である。(2)体験の積み重ねによって生徒の自信が深まっていくことが,あらためてわかった。発表学習同様,ディベート場面になると思うように意見を表明できなくなることから,事前準備作業の工夫が課題として示された。(3)「合意」に至ることは難しかったといえるが,それは生徒が考えた留保条件が,「自らの主張を絶対に譲らないと強調しているに過ぎない」ものであったからだといえ,留保条件を「歩み寄りの条件」に変える学習過程の重要性が課題として示された。

実践者名:千葉県立船橋啓明高等学校 清水 洋一