実践指定校実践例 2012年度

思考力・判断力・表現力を高める小学校社会科討論授業

多久市立中部小学校(たくしりつちゅうぶしょうがっこう)

教科、科目、領域

小学校: 社会
学年 小学 5年
これからの自動車について考えよう
自動車産業について理解するだけでなく、今の日本の状況をふまえたうえで、これからの自動車産業や社会の在り方を考え、現実社会の形成に参画していく資質や能力を高める。
討論の論題に関する新聞記事を教師が取捨選択、分類し児童向けにわかりやすくまとめたものを主張の根拠として活用させる。
新聞活用学習

第1時 学習問題1「自動車はどのようにしてつくられているのだろう」を設定する。第2時 生産の工夫や努力について調べる。第3時 関連工場について調べる。第4時 輸送や海外での現地生産について調べる。第5時 学習問題2「環境にやさしい自動車をもっと普及させるためには,どうすればよいのだろう」を設定する。第6時 電気自動車普及の取り組みの成果と課題を知る。第7時 討論に向けて新聞などの資料を根拠に立論を作成する。第8時 1回目の討論をする。第9時 2回目の討論をする。第10時 意見文を書く。

第9時

○論題と討論の進め方、評価の観点を確認する。

○立論を述べる。
【予想される児童の主張】
賛成派
・地球温暖化の原因である二酸化炭素の多くは自動車が排出している。電気自動車は、化石燃料である石油を使わず二酸化炭素を排出しないから。
・電気自動車は現在、価格が高いため消費が伸びていないそのため、政府の補助金でさらなる消費を促せば、環境によく、経済も活性化する。
反対派
・国の借金も増えている中で、国の予算がなくなる。歳出を削減すべき。
・電気自動車だけに補助金を出すことは、消費者にとって不平等である。
・電気をつくるために、現状では火力発電が多く、発電所では、石油や天然ガス、石炭を消費して二酸化炭素を排出している。
・燃料電池(水素)自動車の研究・開発を進めるべき。

○相互に質問・反論を述べる。
反対派⇒賛成派
・景気が悪く、電気料金は値上がりしているので、補助金を増やしてもこれ以上売れないのでは。
賛成派⇒反対派
・再生可能エネルギーによる発電を増やして電気自動車を普及させ、二酸化炭素の排出を減らすべき。
○討論の自己評価・相互評価と討論を終えての自分の考えを書く。
○判定者の評価を聞く。

・今回の討論は根拠となる事実を明らかにして主張することに重点をおく。そのため、根拠とする資料(新聞)の出典を述べさせて、できるだけ多くの児童に発言させる。また、根拠が曖昧な場合には、どの資料(新聞)から考えたのかを問う。
・新聞記事は情報量が多く言葉が難しいため、児童が立論で活用できるように教師が自動車や電気に関連する記事を取捨選択してまとめたものを配布しておく。

今回の討論では,立論を述べた13名全員が根拠となる資料を明らかにして発言することができていた。かつ,13名中7名が新聞記事を根拠として活用していた。討論後の意見文では、27名中,資料(新聞等)を自分の考えの根拠として活用していた児童が26名(96%),関係する複数の状況を見出して記述していた児童が19名(70%),複数の状況を比較して記述していた児童が17名(63%)であった。

成果
討論の発言記録の分析や意見文の分析から,資料と自分の考えを関連付ける思考力や複数の状況や社会的価値を比較して判断する力,自分が考え判断した過程も含めて発言や文章で適切に表現する力の高まりが見られた。特に,新聞記事を活用して討論をしたことで,児童は現実社会の地球温暖化の状況や国の厳しい財政状況,東日本大震災への復興の状況をふまえて思考・判断・表現していた。
課題
情報を批判的に読むことの指導が十分ではなかった。今後は,ソーシャルメディアがさらに増えていくことが考えられるので,情報をうのみにするのではなく,批判的に読むことの指導が社会科だけでなく他教科でも求められる。また、今回は一つの単元の実践であったが,NIEの実践的研究を質的な面からも継続的に行っていく必要がある。

実践者名:多久市立中部小学校 浦川 雅雄