第8回 デンマーク・スウェーデン(2003年3月)
11都道府県12人の実践教師が参加し、コペンハーゲン、マルメを訪問。学校授業を参観、高校生向けメディア研修機関、新聞社を訪れ、両国の新聞社や新聞発行者協会のNIE担当者と懇談した。新聞社等から2人が同行した。
視察概要
※「NIEニュース」第31号(2003年5月31日発行)掲載
北欧は世界中でもっとも多く日刊紙が読まれている地域といわれる。2000年のデータによると、デンマークでは週4~7日発行の新聞が31紙、約148万部、スウェーデンでは同93紙、約370万部発行されている(『日本新聞年鑑’01’02』による)。こうした社会の基盤となる両国の義務教育は、基本的に日本の小学校と中学校を合わせたような9年制の学校で行われている。デンマークでは国民学校、スウェーデンでは基礎学校と呼ばれており、いずれも7~15歳を対象にしている。
デンマークでは、6歳児対象の就学前学級や進学、成績向上を目的とする第10学年を併設している国民学校もある。日本の中学生にあたる第8、9学年ではメディア教育を含め多様な選択科目が用意されている。1クラスの定員は28人である。
スウェーデンでも、基礎学校に就学前教育のクラスが併設されている。1クラスの定員は25~30人程度だが、かつての学区制を廃し家庭の側で学校を選べるようになったことで、地域あるいは学校が独自に裁量できる部分が増えた半面、入学する児童・生徒の数が流動化し、教員や施設の確保など学校にとっては予定が立てにくい状況となっているようだ。
デンマーク新聞協会の取り組み
デンマーク新聞協会では、子どもたちに民主主義社会で新聞がどのような役割を果たしているのかを理解させることを目的にNIE活動を展開している。
協会に加盟する新聞社と協力して新聞提供事業に当たるほか、文部省や教育専門大学など政府機関、学校教材を集めて資料を提供する地方自治体の教育関係機関とも協力して教師のための研修会などを実施している。また、教師向けNIE資料「Avisen(新聞)」を作って全国の国民学校に無料で配布するとともに、授業のヒントになるような資料・出版物を作り、販売している。このほか、インターネットのホームページ「AvisNet」では、生徒向けに新聞に関する初歩的知識、メディアの役割や民主主義とのかかわり、新聞の倫理や歴史について解説している。
協会活動の対象は、国民学校、高校、教員養成大学の児童・生徒・学生、教師たちである。
また、協会のNIE活動でもっとも大きいものは年1回の学校新聞コンテストである。応募資格があるのは全国の国民学校6~10年生で、A3判4ページの新聞を作る。すでに11年続いており、毎年異なるテーマを決めて募集している。コンテストは6、7年生対象と8~10年生対象の2部門に分かれ、最優秀賞の賞金は25,000クローネ(約50万円)である。全国で約3万人の生徒が参加する。
こうした通常の活動に加え、2001年9月には全国の国民学校10年生に新聞づくりを体験してもらうため、大型トレーラーによる移動編集局を国内10都市に派遣した。公募により選ばれた参加校の生徒たちが事前にテーマを決めて取材し、移動編集局が来たときに紙面を完成させる仕組みである。生徒たちは移動編集局に原稿や写真など取材の成果を持ち込み、地元新聞社の担当者らが作業をサポートする。できあがった紙面は次の日の地元紙に2ページ分のスペースで掲載される。現実の新聞紙面を作ることは、生徒たちにとって非常に大きなインパクトをもつ。生徒たちに一面の制作をゆだねた新聞社もあり、地元テレビなどにもとりあげられて注目を集めた。
国民学校で学校新聞作りを見学
視察団はデンマーク・コペンハーゲン近郊のホルテにあるニューホルテ国民学校を訪問した。出迎えたドルテ・ユエル・ハンセン教諭が担当する8年A組は、学校新聞「Kometen」を作り2002年のデンマーク新聞協会・学校新聞コンテストで全国優勝したクラスである。
このクラスは市が特別クラスに指定しており、教室にはパソコン13台、スキャナー、カラープリンター、プロジェクターが備えられている。生徒たちはグループに分かれて取材、原稿の作成にあたるほか、写真係の生徒もいる。訪問当日も、視察団が校内を回る際には写真係の生徒が同行して写真を撮影した。
全国優勝とはいっても、そこは日本の中学2年生にあたる少年・少女たちである。新聞づくりを実演する授業中だが、おしゃべりに余念のない子がいるのもほほえましい。遠い国から来た一行にも興味津々で、「日本の生徒は何時間ぐらい学校にいるの?」「日本の学校でも新聞作ってる?」など逆取材にあった。
国語(デンマーク語)と英語を教えるハンセン教諭は、学校は子どもたちが社会性を身につけていく場所であり、そのためにも情報に接すること、考えること、自分の考えをきちんと話したり書いたりできるようにすることが大切だと考えている。視察団側の「なぜ新聞作りを?」の問いに対しては、「国語教育のうえで新聞作りが非常に効果的だから」と答えた。
スウェーデン新聞発行者協会の取り組み
スウェーデンのNIEは、アメリカのNIEを見聞きした教師たちが1963年に南部のマルメやヨーテボリで始めたものが起源といわれる。その後、スウェーデン新聞発行者協会が参画するようになった。はじめは、社会科での新聞に関する授業に限られていたが、やがて新聞を使った授業のことをさすようになり、さらには社会科以外の授業に広がっていったという。今回は、発祥の地のひとつマルメを訪問した。
新聞発行者協会では首都ストックホルム以外の7地区で地元の教育関係者と新聞社NIE担当者にコンサルタントを委嘱している。マルメを含むスコーネ地方でも教員経験者と、地元新聞社のNIE担当者がコンサルタントとなっている。人件費や諸経費は、この地方の新聞社8社で構成する共同機関「NIEスコーネ」が負担している。
全国のNIE推進活動の中心となるストックホルムの新聞発行者協会事務局では、各地区コンサルタントのNIE活動のサポート、新聞社・教師にNIEをより理解してもらうための出版物の発行、NIEに携わる教師やジャーナリストのための研修を行う仕組みだ。
ディベートに向けて新聞で学ぶ
スウェーデンでの視察先のひとつシルセベリ基礎学校はマルメ市内の住宅地にある。訪問した8年E組は日本の中学校2年生にあたる。このクラスは生徒16人(男子生徒10人、女子生徒6人)で構成されており、イラク戦争に関する校内ディベートを控えていた。担任のヨナス・カールソン教諭は社会科教諭である。
訪問当日は、地元で発刊されている新聞2紙を読み比べ、ディベートに備える授業が行われていた。授業にあたっては、カールソン教諭が「新聞の課題」と題するワークシートを準備した。このワークシートは新聞発行者協会のものを参考に作られたもので、「見出しを比較しよう」「事実を見よう」と生徒に呼びかけ、ワークシートに示された項目ごとに意見をまとめるよう求めている。
同教諭は生徒に対しワークシートに基づいて新聞を読ませながら、「この戦争の最大の被害者は誰だと思うか」「この戦争の最大の問題は何か」などと質問したり、「報道では“殺す”“血を流す”という表現がない」と指摘し、生徒の反応を引き出す。
生徒も「ねじまげられた真実が戦争の被害者」「情報・宣伝戦であることがこの戦争の問題」「戦争につきものである酷い表現が紙面にない。戦争の真実が隠されている。報道を鵜呑みにしてはいけないと思う」と答えていた。生徒に授業の感想を聞いたところ、「この授業はおもしろい」「試験はない方がいい」「先生にはもっとわかりやすく説明してほしい」「冗談を言ってほしい」といった答えが返ってきた。
同教諭によると、4年生ぐらいから時事ニュースをクイズにして授業で利用している。8年生の社会科の一部としてマスメディアに関する授業があり、メディアの機能や特性を教えている。こうした積み重ねが先ほどの授業につながっているという。
視察団メンバーがカールソン教諭に「日本の子供は自分の考えを述べることが苦手。いいアドバイスはないか」と質問したのに対し、同教諭は「スウェーデンでは小さい頃から自分の意見を発信する練習をしている。親・子・教師による三者面談で話し合うこともある。こういったことは国民性というより生活習慣といえるのではないか」と述べた。
デンマークでは新聞社やテレビ・ラジオ番組などを制作する会社が、15歳前後の生徒を対象に、コンピューター・システムよる模擬取材や、実際の新聞作りを体験することで新聞への理解を深める教育プログラムを実施している。また、歴史のある全国紙が出版社と共同で学校教材用の新聞を製作・販売し始めている。
一方、スウェーデンでは大学教育の中で新聞作りを体験した日本人学生の話を直接聞くことができた。また、ジャーナリズムからコンピューター・グラフィックス、テレビ番組の制作、舞台美術など実社会で即戦力として期待されるようなメディア教育を総合的に行う公立高校も訪問した。
日程
3月23日(日) |
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3月24日(月) |
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3月25日(火) |
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3月26日(水) |
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3月27日(木) |
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3月28日(金) |
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3月29日(土) |
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3月30日(日) |
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