第5回 オランダ(2000年3月)

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12都道府県18人の実践教師が参加し、アムステルダム、ハーグ、アイントホーフェン、ハーレムを訪問。オランダ新聞教育文化財団のNIEワークショップに参加したほか、学校の授業を参観、新聞社を訪れた。新聞社等から2人が同行した。

視察概要

「NIEニュース」第19号(2000年5月31日発行)掲載

海外NIE事情視察団の派遣は、米国(2回)、豪州、英国に続いて5回目。毎年、小・中・高校のNIE実践者を対象に実施している。今回は、日蘭修好400周年ということもあり、NIE先進国オランダを訪問した。

オランダの国土は41,574平方キロメートル。九州よりやや大きい程度の国土で、人口は約1,500万人。その中に、全国紙10社とローカル紙30社あまりが存在する。発行部数は1万部程度から、80万部までさまざま。購読形態は宅配が中心となっている。

申請に応じて新聞を提供

オランダのNIEはオランダ新聞教育財団(STICHTING KRANT IN DE KLAS)が、中心となって進めている。同財団は1975年に設立された。オランダの日刊紙すべてが会員であり、オランダ新聞発行者協会(NDP)の財政支援を得ている。同財団は、教材として学校に新聞を提供するほか、教師向けのNIEガイドブックや、補助教材の作製、新聞を読むことによる効果の調査などを行っている。

オランダにおけるNIEの最大の特徴は、教師の求めに応じて、無料で新聞を提供する点にある。所定の用紙に記入して財団に申請するだけで、全国紙10紙に、在住地域の地方紙を加えた11~12紙を購読できる。1人の教師につき、各紙2部、2週間を上限に、年間2回まで申請できるが、多くの教師は、お互いの権利を合わせて、購読期間を延ばしたり、部数を増やしている。さらに、これとは別に、特定の日の新聞1紙を必要部数取り寄せることもできる。このシステムには、参加者の多くから「ぜひ日本でも取り入れて欲しい」との声が出された。

同財団NIEコンサルタントのジェラルド(Gerard van der Weijden)氏は、「とにかく新聞を読むこと。それだけで効果がある」と強調する。

未来読者創出のための投資

オランダの新聞社が、教材として提供する新聞は年間400万部(日本の約17倍)に及ぶが、未来の読者創出のための投資という各社の一致した理念に支えられている。

北ブラバンド州の地方紙「ブラバンツ・ダグブラッド(Brabants Dagblad)」アイントホーフェン市の地方紙「アイントホーフェンズ・ダグブラッド(Eind-hovens Dagblad)」は、同じ企業グループに属し、どちらも積極的にNIEを推進している。話をうかがった両紙のNIEマネジャーを兼任するイルセ・ウェッツェル(Ilse Wetzel)氏は「オランダのNIEは、(作文など表現の学習が始まる)11歳以上を主な対象としているが。今後は新聞離れの進む大学生なども視野に入れていきたい」と語る。

紙面づくりコンテスト実施

両紙はNIEの教材開発ほか、「紙面づくりコンテスト」を毎年開催している。これは11歳から19歳の児童・生徒を対象に、(1)インタビュー(2)論説・意見(3)情報(4)写真――について紙面づくりのアイデアを募集し、審査のうえ、優秀作(2~3作品)は記者と共同で紙面化して本紙に掲載するというもの。毎年約4,000人から応募がある。

訪問したアイントホーフェン市近郊の聖アントニオス初等学校(Basisschool St. Antonius)は、この「紙面づくりコンテスト」で2回入賞している。

児童数は8学年230人、各クラスは20人程度で編成されている。新築された校舎は、多目的スペースを中心に教室を配置、各所にコンピューター端末が置かれ、児童は自由に使える。少人数クラスと、最新設備は参加者一行の興味をひいた。

11歳から12歳のクラスを担任するフランセル教諭(Francell van Loenhout)は、「今年も積極的にNIEに取り組む予定」という。

5~16歳が義務教育期間

オランダでは、5歳の学齢に達したときから16歳になる学年の終了までの12年間が義務教育期間で、初等教育(=小学校)終了時に進路が決定する。その後の進路変更も可能だが、基本的に、学術教育コースと職業教育コースに分けられる。

今回の訪問校のうち、ビショップベッカーズ上級普通中等学校(Pleincollege BisschopBekkers)と、ハーグ高等職業教育カレッジ(Haagse Hogeschool)は、職業教育コースに位置づけられている。

アイントホーフェン市のビショップベッカーズ校は、5学年で生徒数は950人。コンピューターを用いた教育(ICT Education)を重視、そのための予算措置を政府より受けている。オープン・ラーニング・センターと呼ばれる資料室には、書籍、新聞ほか、インターネットに接続可能なコンピューター端末を備える。NIEの授業は見学できなかったが、生徒の多くは、新聞社のホームページから記事をプリントして活用するとの説明に「NIEと呼んでいいのか」などの声が参加者から出された。

ハーグ高等職業教育カレッジは、デン・ハーグの14のカレッジを統合し1999年に設立された。31のコースに17,000人の学生が通う。広場を中心に、円形に教室が配置され、最新の設備により、各自の専攻に応じた知識・技術を身につけられる。

新聞を読み比べる

アムステルダムの近郊エームステイデのハーグベルド大学予科学校(Hageveld Atheneum)は、大学進学コースで、12歳から18歳までの生徒1,082人が通う。創立は1817年と伝統のある学校。

同校では、国語の教員であるマックス(Max Verbeek)教諭を中心にNIEに積極的に取り組んでいる。見学した授業は、生徒たちが10分程度、2紙を読み比べ、同じ出来事の取り上げ方の違い、全体の紙面レイアウト、論調の違いなどについて、2人1組で発表するというもの。生徒たちからは、「(いわゆる高級紙の方が)文字が多く難しい印象だ」「(大衆紙は)写真がきれいだが、色がけばけばしい」「同じ(配信の)写真でも、新聞によってカラーの場合と、白黒の場合がある。また、キャプションにも違いがある」などの指摘があった。教師は、短くコメントする程度で、結論は出さない。こうした授業を何度か続けた後、生徒が各自学んだことをまとめていく。

インターネットの普及は世界的な潮流で、それをどう取り入れるかが、オランダ教育界、新聞界の課題となっている。今回の視察では、実際のNIEの授業を見る機会は少なかったが、コンピューターなどとあわせて、NIEを取り入れているのが現状ではないか。NIEという言葉が、広義に用いられているようだが、あらゆるツールを使って新聞を親しませ、読者をつくり出すという意識の表れともいえる。

コンパクトな国という利点をうまく生かして、制度が整えられているという印象をうけた。

参加者の感想から

  • 対話を中心にしながら学習を進めるスタイルが印象的だ
  • 教育現場の息吹は、私自身の好奇心や探求心をおおいに刺激した
  • 新聞のよさをいかに教育現場で活用していくかが今後の課題だと思う
  • 「答えは大事ではない。その見つけ方が重要なのだ」という姿勢は、総合学習の考え方とも一致するもので、興味深かった

日程

3月25日(土)
  • スキポール空港着
3月26日(日)
  • アムステルダム ザーンセ・スカンス(Zaanse Schans)、フォーレンダム(Volendam)、エンクハイゼン(Enkhuizen)、アイセル湖大堤防(Afsluitdijk)ほか
3月27日(月)
  • アムステルダム オランダ新聞教育財団(STICHTING KRANT IN DE KLAS)訪問 →NIEワークショップ
3月28日(火)
  • ハーグ ハーグ高等職業教育カレッジ(Haagse Hogeschool)訪問 →学校説明、見学
3月29日(水)
  • ベスト、アイントホーフェン
  • 聖アントニオス初等学校(Basisschool St. Antonius)訪問 →学校説明、授業見学
  • ビショップベッカース上級普通中等学校(Pleincollege Bisschop Bekkers)訪問 →学校説明、見学
  • ブラバント・パーズ新聞印刷所(Burabant Pers Printing Office)訪問 →同社のNIEの取り組みについて説明、所内見学
3月30日(木)
  • エームステイデ ハーグベルド大学予科学校(Hageveld Atheneum)訪問 →NIEを含む授業見学
3月31日(金)
  • スキポール空港発
4月1日(土)
  • 成田空港着