第3回 オーストラリア(1998年3月)
10都道府県14人の実践教師・元教師が参加し、シドニー、メルボルンを訪問し、学校の授業を参観、新聞社のNIE担当者とも懇談した。メルボルンではビクトリア州教育省主催のNIEシンポジウムに参加した。新聞社等から2人が同行した。
視察概要
※「NIEニュース」第12号(1998年5月31日発行)掲載
ビクトリア州教育省のスーザン・デネット氏は、州政府のNIE政策について次のように説明した。
オーストラリアでは、州ごとに政府が、学校にカリキュラムを提示し、テキスト(教科書)の選択は、学校現場に任せている。
州政府は、義務教育期間に当たる初等教育と中等教育の前期課程と、大学進学の準備期間に当たる中等教育の後期課程の2つに分けて、プログラムを用意している。
義務教育期間は、幅広い教科の中で、NIEのガイドラインを提示しており、教師は「芸術」「情報技術」など、様々な教科の中でNIEを実施している。
州としては、授業計画の立案は学校にゆだねており、カリキュラムのどの部分で新聞を活用するか、何を教材に使うかは、先生が判断している。
「国語(英語)」の勉強では、文学的な文章、新聞記事、テレビ・ラジオの脚本のほか、日常生活の中で目に触れる文章、広告のコピーなども取り上げ、それらを通じて文章による表現力をつけさせることが重要だ。
卒業統一試験が、選択教科ごとに論文形式で実施されるため、中等教育の後期課程の「国語」の授業は、あるテーマを新聞がどのように取り上げているのかを参考に、自らの考えをまとめる力をつけさせるようにしている。
州政府の重要な仕事の一つに、現場教師への支援がある。その一環としてどういうガイドラインを採用すべきかについてヒントを与えるカリキュラムガイダンスを実施したり、教師が新聞を使ううえで役に立つ手法を紹介するCD-ROMの開発などを手がけている。
州政府はまた、マスコミを通じて教育政策を発表して、先生の理解を得るように努めている。また、先生や子どもたちの活動を報じる記事や、写真がより多く紙面に掲載されるようニュース素材を提供して、教育が社会の中でいかに重要であるかを、国民に理解してもらうようにしている。
最後に、デネット氏は子どもたちにも社会の中で、マスコミが果たす役割の重要性を知ってもらうようにしている、と締めくくった。
批判的な目を養う
クランボーン高校(メルボルン)のロス・ハガード教頭は、学校でのNIEの取り組みについて説明した。それによると1990年以前は、クリア・シンキング(はっきりした考え方)を持たせるために、新聞記事や写真を使っていた。しかし、新しい方針以後、新聞をもっと広い範囲で活用するようになった。
現在は、「国語(英語)」授業の中で、生徒たち一人ひとりが、時事問題を扱った記事を切り張りして作っている「メディア・テキスト」を使って、卒業統一試験の準備のための勉強を行っている。
授業では、記事に出てくる「用語」を取り上げて、その意味や読者に与える影響について考えさせたり、見出しから、記事が何を言おうとしているかを学ばせる。また、新聞の写真やマンガ、イラストをどう解釈したらよいのかを教える。そして、こうした訓練を通じて、生徒には批評的な目で新聞を読むよう指導している。
記事については「客観記事と主観的な記事」の違いを教え、「社説」については受け取り方が読者によって異なること、「マンガ」については何をアピールしているかを考えさせる。また、記者が読者に何を伝えようとしているのか、記者の視点についても学ぶ。いくつかの記事を比較しながら様々な角度から記事が書かれていることを勉強させている。
記事はなるべく高校生に関係するもので、ホットな話題を取り上げるようにしている。先日は、スポーツ選手の麻薬使用の記事を取り上げた。
州の方針としては、あらゆる文章の使用が推奨されている。しかし、いずれの文章も「文法や用語」「どんな状況で書かれたものか、書き手の背景や個人的な立場」「それを読んだ読者がどう反応するか」の三つの観点に留意した学習を行うよう求めている。それは、何が書かれているかを解釈させるだけでなく、総合的な判断力の向上に重点を置いているためである。新聞に書かれているから真実だとうのみにしないで、自分の頭で考える生徒の育成を目指しているという。
日程
3月29日(日) |
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3月30日(月) |
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3月31日(火) |
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4月1日(水) |
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4月2日(木) |
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4月3日(金) |
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4月4日(土) |
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