第10回いっしょに読もう! 新聞コンクール受賞作

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神奈川県立横須賀高等学校 2年 影浦 響子(かげうら・きょうこ)さん

意見を聞いた人:母

記事見出し

遺族に配慮 異例対応(産経新聞2019年8月3日付朝刊)

授賞理由

京都アニメーション放火事件から半月後、京都府警が被害者氏名の一部を公表した。その背景を報じた新聞記事に接し、それまで「無理に公表しなくてもよい」と考えていた影浦さんは憤りを覚え、他者の意見を聞いてみることにした。

母親の「我が子の生き様や事件への思いを伝えたい人がいるかもしれない」との言葉で、取材を望む遺族の存在に思いが至った影浦さん。物事を考えるには、多角的な視点を持つよう気をつけなければならないことを痛感した。

実名報道の是非という重いテーマに関心を寄せ、対話を通じて得た気付きにより、自身の考えが深まる様子を卓越した文章力で表現した。最優秀賞にも匹敵するとの評価を得たことから、今後も現代社会の課題について深く考える姿勢を貫いてほしいとのメッセージを込め、審査員特別賞を贈ることにした。

(1) この記事を選んだ理由と、記事を読んで思ったこと、考えたことを書いてください

早すぎる、まだ半月なのに。京アニ放火事件の被害者身元公表に驚いた。事件直後京アニが公開した文面では遺族や被害者のことを考え当面の公表はないと記され、納得していた。公表はもっと落ちついてからでいい。遺族が嫌がるなら無理に公表する必要もないとさえ考えていた私は、あまりに早い公表の記事にむしろ「配慮を重ねて公表を遅らせた」というニュアンスが含まれていることに強い疑問と怒りを覚え、他者の意見を聞きたいと思った。

(2) 家族や友だちなどにも記事を読んでもらい、その人の意見を聞きとって書いてください

「こんなの、マスコミが記事のネタを作るために無理やり公表させたようにしか思えない!」憤る私に母は言った。「でも、遺族が皆公表に反対しているとは限らないわよ。今回のように多くの人に慕われた子を持つ親ならなおさら、わが子がどう生きたかを、それを奪った犯人や事件への思いを伝えたいと思う人もいると思う」

(3) 話し合った後のあなたの意見や提案・提言を書いてください

「遺族は被害者の身元を公表したくないものだ」という考えは、昨今マスコミ批判が強まる中で浸透しつつある。実際にモラルを欠いた過剰な取材が遺族を傷つけたのも一度や二度ではない中、情報があふれるようになった今だからこそ「必要以上に知ろうとしない」という動きが生まれてきたのだと思う。一方で取材を望む遺族が存在するということを、私は失念していた。それは母の言うような前向きな面だけでなく、記事で述べられているような「報道されない被害」を防ぐためにでもある。その場合、事件が沈静化してからでは既に遅いのだ。そのことに気づいてから記事を読み直すと、記者や警察側の決まったタイムリミットの中で遺族への理解を求める努力を感じることができた。何かを批判する考えは、相手側に立って物事を考える能力を奪うことが少なくない。多角的な視点を失わないよう気をつけていかなければならないと強く感じた。