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デジタル社会を生きる子供たちに今、最も求められるのは、偽情報や誤情報が入り混じったインターネットの大海から確かな情報を見極める力です。この力=メディアリテラシーを身につけるためには、新聞をはじめとする各メディアの機能・役割を知り、メディアによる情報の質の違いを吟味する学習が重要です。

では、実際にどのような授業が考えられるのでしょうか。

ここでは、授業やカリキュラムの中で、新聞を教材としたメディアリテラシー教育をどのように取り入れていくとよいのか、ヒントになるような実践や考え方を紹介します。

「動画・NIEはじめの一歩(メディアリテラシー編)」

新聞を使ってメディアリテラシー(情報を収集・選択・活用する力)をどう育むのか、その方法を示しながら、まずはフェイクニュースへの「免疫力」をつけることを推奨しています。どうすれば免疫力がつけられるのか、新聞と結び付けて解説しています。

第8回NIE教育フォーラム「学校教育におけるメディアリテラシー」

2025年3月に開催した標記フォーラムでは、ICTとNIE両方に精通した教育者と、新聞の正確な情報を支える校閲のプロを招き、メディアリテラシー教育の在り方や、批判的思考力の向上にNIEはどう寄与するのか――などについて議論を深めました。

当日の講演やセッションをこちらでお読みいただけます。

新聞を活用したメディアリテラシーの実践例紹介

情報を吟味し再構築する力の育成~生成AIを活用して~

単元名
AIと社会のデジタル化
ねらい
本実践は、既存のメディアリテラシーや情報リテラシーの枠組みを超えて、情報の受発信者である生徒が、多様な情報源を自律的に評価・統合し、デジタル社会における責任ある市民としての意識を育むことにある。これにより、個々の情報リテラシーの向上を目指す。
新聞活用のポイント
新聞は、伝統的な編集プロセスにより、情報が信頼性を有しており、情報(物事)の全体像や背景が容易に把握できる利点がある。その情報特性を生かしてデジタル情報と比較したり、批判的評価の基準としたりする。
具体的なポイントは以下の通り。
・基準としての活用
新聞記事は、厳格な確認・検証を経ているため、他のデジタル情報と比較する際の信頼できる基準となる。(裏取り、校閲等の意義を伝える)
・情報の多層性の理解
情報の全体像や背景を把握しやすい特徴(紙面上での一覧性、情報の時間的推移)を持つ新聞と、断片的なデジタル情報との違いを明確にする。
・批判的思考の育成
新聞の記事内容や編集方針を分析することで、情報のバイアスや省略部分に気づき、批判的に評価する能力を育成する。(記事の論理的構成の理解、複数紙の読み比べの実践)
学年
高等学校1年
教科・科目、領域
公共・公民科

実践内容

1限目「生成AIによるニュースの変容」
新聞記事・ネット記事・AI生成の記事の3種類を提示し、AIが生成した記事を考察する。また、生成AIのデモンストレーション(後述の学習活動(2))からニュースの違いを比較検討する。

2限目「フィルターバブルによるバイアスの理論的理解」
フィルターバブル体験のワークショップを実施する。生徒が日常的に接するニュースの傾向や各自が収集した情報の事例を共有し、バイアスの仕組みについて理解する。

3限目「情報再構築能力の育成」
異なる視点のニュースを比較し、共通点・相違点を整理することにより、情報を生徒自身が自律的に再構築することで多角的な理解を深める。

3時間
学習活動

(1)「ニュースは本物か?AIニュースクイズに挑戦」と題してAIが生成したニュースと人間が書いたニュースの違いを見破れるかという課題に挑戦する。AI生成記事については、新聞記事やニュースなどから得た情報を生成AIに読み込ませた上で「新聞記事のような形式で出力してください」と指示を出して作成する。

(2)教員が生成AIを用いて、同一のニュースを異なる視点(環境・経済・国際関係)から生成する過程をライブデモンストレーションし、生徒は生成AIが作成したニュースの違いを比較検討する。

(3)自身の情報源を振り返り、情報の偏りを感じられるかをフィルターバブル体験のワークショップで体験し、取り組みを通じた考えの変化を自身の言葉でアウトプットさせる。手順は以下の通り
①太陽光発電と蓄電池の普及について全員に同じ記事を読ませる。
②「環境保全を重視」「経済成長を重視」という異なる視点で書かれた記事について、教室の列ごとに2本のいずれか一方を読ませ、感想を記録する。
③異なる立場の記事を読んだ隣の列とグループを作ってディスカッションを行い、感想にどのような変化があったかを話し合う。
④「上記①の記事を読んだ後」「②の記事を読んだ後」「グループディスカッションの後」それぞれの考えの変化を確認し、記録する。

(4)生徒が自分のスマートフォンやPCでおすすめされた情報などを基に収集したニュースを発表し、各グループで意見をまとめて見解を共有する。

(5)集めたニュースについて、「事実報道と批判・意見記事」「国内メディアと海外メディア」「政府の視点と市民の視点」「科学的、感情的、倫理的それぞれの視点」など、記事の特性を踏まえて分析させる。

(6)これまで学習したことを踏まえ、これからどのようにニュースと向き合っていくかをアンケートに記入する。

留意点
①生徒に分かりやすい違いがみられるように指導者側が配慮し、題材を提示する。
②当該の記事全体を見せるのではなく、授業のポイントに関連する部分に絞って見せることで生徒がテーマに集中できる。

生徒の反応

「これまで何の疑いもなく、流れてくる情報を受け取っていた」「知らない間に自分もバイアスがかかっていたんだなと思った」などの自身の情報受容の仕方を振り返る意見に加え、「生成AIが進化すると見分けつかなくなるのかな」「AI主導で世の中が動いていくのかも?」などの意見も見られた。

実践の成果と課題

生徒は、従来の受け身な情報受容から脱却し、提供されたニュースや情報を、新聞記事に代表される信頼性の高い情報によって培われた自らの背景知識や文脈と照らし合わせ、積極的・批判的に評価・統合する姿勢を示している。具体的な成果としては以下の点が挙げられる。

①実践を通じて、生徒は従来の情報収集から分析、アウトプットに至るまでの時間が短縮され、認知処理の効率が向上した。
②アウトプットにおける論理的な矛盾や情報の欠落が減少し、精度が高まることも確認できた。
③情報の多層性や偏りに気づくとともに、学習活動(1)(2)を通じて各情報源の信頼性を比較することで柔軟な思考が育成された。
④ワークショップやディスカッションを通じて、単に知識を受け取るのではなく、自分自身の視点で情報を再構築し、デジタル市民としての自覚と責任感を持つようになった。

これらの成果は、メディアリテラシー教育における「批判的思考力」と「自律的な情報再構築能力」の向上を反映している。

今後の課題としては、ニュースの情報源を多角的にチェックする習慣を身に付けさせると同時に、AIツール利用時の倫理と安全性について再確認することが挙げられる。

また、指導者側においても多様なデジタル情報環境に対応するための指導方法や技術面での改善が必要となる。

実践者名:東京都立練馬高等学校教諭  小松 純

真偽不明な情報をどう見抜くか ―― 関東大震災の流言飛語とディープフェイクから学ぶメディア・情報リテラシー ――

単元名
マスメディアの発達と大衆社会の成立
ねらい
関東大震災時の流言飛語と、現代の災害時のディープフェイクを結び付け、真偽不明な情報が流行する環境的要因や心理的要因について探ることで、情報を吟味し、根拠をもとに自らの意見を形成する力であるメディア情報リテラシーを身につけることを目指す。
新聞活用のポイント
NIEには「新聞制作学習」「新聞活用学習」「新聞機能学習」「新聞聞読習慣」の四つの側面がある。「新聞機能学習」は、新聞というメディアが社会的にどのような機能を担い、記事がいかなる編集意図や立場から作られているのかを理解する学習であり、メディア情報リテラシーの育成に直結する学習活動である。本実践では「新聞機能学習」に焦点を当て、メディアの役割と構造を理解できるようにする。
学年
高等学校1年
高等学校1年
歴史総合・地理歴史科

実践内容

1時限目「100年前の災害から私たちは何を学ぶべきか」
関東大震災時の被害や流言飛語、当時の新聞報道を資料として読み取り、真偽不明な情報が人々に信じられ社会に広まった背景や影響について考察する。

2時限目「関東大震災時の流言飛語と現在のフェイクニュースの状況を通して、私たちは情報をどのように扱うべきか」
現代の災害におけるディープフェイクの事例を取り上げ、関東大震災時の流言飛語と比較しながら、情報が拡散する要因や災害時の情報との向き合い方について考察する。

2時間
学習活動

1時限目
(1)知識構成型ジグソー法を活用して、以下①~③のパートに関連する資料から情報を読み取る。

①関東大震災について取り上げた現代の新聞記事から、当時の被害の状況を把握し、社会主義者や朝鮮人に対するデマを含む流言飛語が広がったことを理解する。

②関東大震災前の朝鮮に対する植民地支配の状況を理解し、朝鮮の独立運動に対する恐怖心や民族的な差別意識などが、朝鮮人に対する流言飛語につながったことを理解する。

③当時はラジオ放送開始前であり、人々にとって新聞が主な情報源であったが、多くの新聞社屋は震災により倒壊し、機能不全に陥っていた。こうした混乱の中で人々は不確かな情報(富士山の噴火が震災につながった・山本権兵衛総理大臣が暗殺されたなど)を含む記事を信じてしまう環境的要因について理解する。また、当時の人々の日記から、流言飛語を受け入れるバイアス等について考える。

(2)知識構成型ジグソー法を活用して、①~③の情報を生徒間で共有・深化し、「100年前の災害から私たちは何を学ぶべきか」の問いの考察を表現する。

2時限目
メディアリテラシー、ニュースリテラシーの出前授業等を活用して、
(1)現在の災害などにおいても、生成AIで作成したフェイク画像や動画を用いたデマが流行していることを把握する。

(2)ファクトチェックなど情報の出自を確認することの大切さに加え、SNS等で真偽不明な情報を信じ、結果として偽情報を拡散しないことなど、情報の発信者としての責任の重要性にも気づく。

留意点
関東大震災時の流言飛語について扱う際には、史実に基づく資料を用いるとともに、一面的な理解に陥らないよう留意する。また真偽不明な情報が人々の不安や恐怖と結び付くことで、差別や暴力につながった歴史的事実を踏まえ、情報を無批判に受け取ることの危険性について冷静に考えさせるよう配慮した。

児童・生徒の反応

①自分たちが気をつけなければいけないこととして、今までは受け取る側の目線だけで「疑うこと」「正しい情報を見分けること」が大事だと思っていたけれど、発信者目線である「不確かな情報を発信しない」ことも大事だと知ることができた。一度流布すれば消すことができないネット上での自分たち一人一人の影響力を知ることができた。
②昔から今に至るまで色々な形式で色々なデマが広まっていったけど、いつの時代においてもデマが広まる大きな原因は不安や好奇心なのだとわかった。私はこれから先、デマ情報を広めないためにも、メディアリテラシーを身につけ、不安などにあおられてデマ情報を広めないようにしようと思った。

実践の成果と課題

成果:新聞記事を資料として読み取る活動により、生徒は関東大震災時の情報環境の制約や不安が高まる状況下で、なぜ誤った情報が信じられ、行動につながったのかを具体的に考察することができた。また、現代の災害におけるディープフェイクと比較することで、情報伝達の速度や手段は変化しても、真偽不明な情報が広がる構造自体には共通点があることに生徒が気付く場面が多く見られた。これにより、生徒は単に「正しい情報を見抜く方法」を学ぶにとどまらず、誤った情報が信じられてしまう要因を歴史的・構造的に捉えようとする姿勢を身に付け、メディア情報リテラシーの深化につながった。

課題:本実践は歴史的事例の分析に重点を置いたため、現代のSNSやデジタルメディアを実際に操作・検証する活動までは十分に行うことができなかった。情報の拡散を体験的に理解させる点については、今後の工夫が必要である。歴史的事例による深い理解と、現代的手法を用いた実践的学習とを組み合わせ、段階的にリテラシーを育成するカリキュラム構成で今後試みたい。

実践者名:東京都立つばさ総合高等学校主任教諭  玉腰 隆幸

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