地域NIE巡回講座「NIEで向こう三軒両隣」

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白鷗大学非常勤講師(NIE教育コンサルタント=当時、元宮城県NIEアドバイザー、元中学校教諭)
渡辺裕子

はじめに

「NIEで向こう三軒両隣」をテーマに「地域NIE」の実践に踏み出したのは2006年4月のことだった。一緒にNIEを勉強し実践を重ねてきた仲間に声をかけ「NIEキャラバン」を立ち上げ、地域の市民センター(公民館)やお寺、神社などで「地域NIE巡回講座」を展開してきた。まもなく3年目に入ろうとしている。

思い起こせば、「地域NIE」の夢は、5年前に韓国のNIEを視察したことがきっかけである。学校にとどまらず図書館や家庭の中にNIE活動(いわゆるファミリーフォーカス)が広まっている様子を見て、刺激を受けた。

中学校に在職中、道徳の授業では「親子NIE~新聞でしゃべりたい夢(む)」と題して「参観型」の授業ではなく子どもと一緒に新聞を読み、考え、意見を交換し合うという「親子参加型」授業を実践した。これが「授業をきっかけに親子のコミュニケーションづくりができた」などと好評を得ることとなったのである。

実は「地域NIE」の具体的な構想はこの授業をヒントにしたものである。親子で取り組むNIEを学校の外でやるのも同じこと、もっと多くの人たちに新聞を使ったコミュニケーション作りの楽しさを知ってほしい。こちらが学校から地域に出向いていけばいい。NIEの種まきをしながら、おまけに地域のつながりをも取り戻せたらこれまた、一石二鳥。こんなにすばらしいことはない――われわれの夢はどんどん膨らんでいった。

2.「地域NIE巡回講座」のねらい

(1)地域力の再生

学校での「親子NIE~新聞でしゃべりたい夢(む)」は、新聞記事をもとにして親子で意見交換をしていくもので、「生徒のコミュニケーション能力の育成」「親子のコミュニケーションづくり」を狙いとした。「地域NIE巡回講座」はそれだけにとどまらず、いわゆる「向こう三軒両隣」をテーマに「地域力の再生」を第一の狙いにしている。

住民同士で町を守り、子どもの教育にもかかわっていたかつての日本の「地域力」にはすばらしいものがあった。自分の幼いころを振り返ってみても、親だけでなく近所のおじさんやおばさん、お年寄りたちがいつも子どもたちを見守ってくれていた。悪いことをすればしかってくれた。また、近所に困りごとがあれば、そこにはいつもみんなで相談し合っている光景があった。

しかし今日のように、子どもにまつわる痛ましい事件や事故のニュースが絶えない中、地域で子どもを守り育てるという機能はもはや、失われてしまったように思えて仕方ない。近所づきあいが希薄化していくなかで、コミュニケーションのきっかけすらつかめないでいる母親も珍しくないという現実がある。

そこで、学校で実践してきたNIEをヒントに「新聞を使って地域のコミュニケーションづくりができないだろうか」と考えたのである。そうすることで「地域のつながり」や「地域の力」をもう一度、取り戻せるのではないかと考えた。

(2)異世代間交流のきっかけづくり

子どもたちはパソコンや携帯電話など互いに顔の見えない相手とのコミュニケーションは容易にとれるが、対面コミュニケーションはどちらかというと苦手意識を持っている子が多い。同世代もさることながら、異世代間ではコミュニケーションのきっかけすらつかめないでいる子も珍しくない。

家庭内においては、親族が一堂に会したりする機会も少なくなっている昨今、異世代とのコミュニケーションから学ぶという体験もなかなか得がたいものになっている。考えてみれば、コミュニケーション力は成長に従って備わるというものではなく、大人がゆっくりと向き合う時間を割いてやってこそ備わっていくものではないだろうか。そういう意味でも、子どもたちのために保護者を含めた地域の大人が一緒になって、異世代間の交流の場を子どもに提供してあげることが必要だと考えた。

3.「地域NIE巡回講座」の実践

07年10月25日、仙台市で開かれた
地域NIEには22人が参加した

NIEキャラバンは現在、私を含めて7人で活動。1、2回目の講座に親子で参加した母親が「NIEを勉強したい。何かお手伝いすることがあったらさせてほしい」と第3回からスタッフに加わった。第2回の概要を以下にご紹介したい。

第2回「地域NIE~新聞でしゃべりたい夢(む)」

日時 2006年6月17日(土)
場所 仙台市木町通市民センター
参加者 親子3組、一般市民大人15人、小学生6人、幼稚園児2人、市民センター職員3人、キャラバン隊4人
内容 「新聞からいい人見~つけた!!」
1時間目=「この人かっこいい」「この人みたいになりたい」「この人の生き方いいな」「この人に同感!」などと思った人の記事を切り抜き、なぜそう思ったのかを書き、互いに発表し合う。
2時間目=その延長線上に自分の夢を重ねて描き、それを発表し合う。
参加者の感想
  • 子どもたちから「新聞って楽しいと思った」「今度は友達と来てみたい」「はじめは面倒だなと思ったけど、やっているうちに楽しくなってきた」
  • 大人から「新聞と聞いて、堅苦しいイメージだったのでどうしようかと思ったけれど、来てよかった。なんだか得した気分」「普段子どもとゆっくり向き合うことがあまりないので、2時間がとても貴重な時間だった。最後にみんなで夢を語り合ったのが新鮮で、わが子と同じ年頃の子どもたちの考え方を聞いて、なるほどと、とても勉強になった」
  • 見学した市民センターの職員「このような企画を今後も続けてほしい」「わたしたちもNIEを勉強したい。いずれは自分たちで企画して、自力で講座を開けるといいなと思った」「NIEアドバイザーの資格はどうすれば取れるのか教えてほしい」
  • キャラバン隊のメンバー「教員としての立場を忘れて、自然体で心から楽しめた。学校で日々いかに肩に力が入っているかが分かった」「力強いパワーをいただいた。学校では色々なことがあって大変な毎日だが、今日はがんばろうという勇気をもらった」「学校以外の人との出会いがうれしい。職場に帰ったら、同僚に話してあげたい」

おわりに

「地域NIE巡回講座」の活動は、思いのほか好調な出だしである。 韓国の視察をきっかけに試みたいわば日本型の「地域NIE」の実践を行ってきたわけだが、様々な課題も見えてきた。この「地域NIEの種」を大きく成長させるためには、今後以下のようないくつかの仕組みや受け皿を考えていかねばならないだろう。

(1)研修制度について

市民センターの職員や一般の方からの「NIEを勉強したい。自分で講座を開けるようになりたいが資格が取れないか」、「“地域NIEアドバイザー”になるにはどこで勉強すればいいのか」などの要望があるがその受け皿と仕組みをどうするか。

(2)人材の確保

教職の片手間でやる活動には時間的、物理的にかなりの制約がある。無理もない。広く進めていくには多くの人材を必要とする。その人材をどう増やしていくかまた、それをどこが束ねていくのか。

(3)経費負担

現在はどこからの援助もなしでやっている。回数が多くなり、遠方への巡回となれば様々な経費負担が発生してくる。いずれ経費面についても考えていかなければならないことになろう。

以上3つに絞って問題提起をさせてもらった。今後、関係機関においても議論していただくことを願ってやまない。

この2年の活動を振り返って思うことは、「これほどまでの『地域NIE』の手ごたえを誰が予想できただろうか」ということである。先に挙げた、一つひとつの課題をクリアすることでこの「地域NIE」はかなりのスピードで広まっていくような予感がする。

とりわけ、07年度は地域住民対象の講座に加えて、各団体が独自に主催する「研修会」からの要請もあった。

東北6県の住職を対象にした「青少年教化指導者研修会」では、「新聞で青少年に生き方を伝える」をテーマに。明るい選挙推進協会主催の「北海道、東北ブロック、中堅指導者養成研修会」では「NIEで地域リーダーの育成を」、仙台市の「市民センター職員研修会」では「市民センターでNIEの講座を開くためには」、北海道夕張市民会館で行われた「全道青年リーダー講習会」では「NIEでコミュニケーション能力とプレゼンテーション能力の育成を」などテーマや狙いは様々だが、いずれもワークショップを取り入れながらNIEを熱く語ってきた。こちらも予想をはるかに超えた手ごたえだったと自負している。

研修後は各地で独自のNIE活動が静かに動き始めている。こうして、じわじわと広がっているのはなんともうれしい限りだ。

時間はかかるかもしれないが、この「地域NIE」が日本中に広がり、根ざしていくことを期待してやまない。宮城の「地域NIEキャラバン隊」は、明日を担う地域の子どもたち、それを支える親と地域の人たちのコミュニケーションづくりの仕掛け人としてこれからも楽しみながらがんばっていきたい。韓国はもちろん、世界に発信できる日本型「地域NIE」が確立することを夢見て・・・(かなりでっかい夢です)。

ロゴの入ったそろいのTシャツも板についてきた。あの街この街、キャラバン号はNIEの夢を乗せて今日も行く♪♪。