“先生”体験から考える

新聞を身近に感じる授業を―「信頼性」をアピールしながら

 産経新聞東京本社が編集局で本格的にNIEに取り組んで2年が過ぎた。延べ約50校に100回以上の授業を行ってきたが、2020年は新型コロナウイルスの流行で、活動に小さくない影響があった。2月以降、予定されていた出前授業や、小中学生の本社見学などはほぼすべてキャンセルされた。一斉休校が解除された後も、教育現場は学習の遅れを取り戻すため、本来予定されていた教育活動を進められなくなっている。そんな中で、現場の先生方の努力でNIE活動が着々と行われていることを実感している。

 東京都中野区立第七中学校では10月、中学2年生を対象に毎年行われる職場体験学習で、コロナ禍により受け入れ先が見つからなかったといい、代わりに企業や団体を学校に招いて、「職業講話」というかたちで授業を行った。同校の依頼を受け、産経新聞も「新聞記者の仕事」「新聞社の役割」について講義をした。生徒たちからは「さまざまな努力が重なって一部の新聞ができていてすごい」「全力で取材していることが分かった」といった感想が寄せられた。

 川崎市立南生田中学校でも、2年生を対象に「新聞記者体験」を行った。首相官邸やプロ野球での取材の写真などを見せながら、記者は自然災害や紛争の場所にも出かけて記事を書くと説明。その後、友だち同士で取材し、インタビュー記事を書き評価し合った。

 生徒からは「スポーツ記者になってみたい」「記事を書くのは大変だと分かった」といった感想が出た一方、「記者会見だけで記事を書いていると思っていた」との発言もあり、私たちは仕事ぶりを含め、まだまだ新聞をアピールしていかなければならないと思わされた。

 コロナ禍で急速に進んだオンライン化に対応し、本社見学や出前授業をオンラインで実施できるよう、態勢を整えた。大阪本社で私立校を中心に、単発ではなく継続して取り組んでいる出前授業では、電子版の新聞を使った学習や、新たに開発したオリジナル号外が作れるウェブアプリ「かんたん号外くん」を使って、自分で新聞を作る試みも行っている。

「面白かった」と思ってもらおう

 学校において新聞を活用する学習活動では、先生と緊密に連携し、できる限りニーズに応えることを心がけている。

 修学旅行の事前学習として、特派員経験のある記者がその国について講演を行ったり、学習のまとめとして新聞制作のノウハウを提供したり、通常の教育課程のなかで単元の一コマとして、インタビュー方法を伝授したり......。

 多くは「特別授業」として行われるため、子供たちには「面白かった」と思ってもらうことを大切にしている。首都圏など都市部では特に、紙の新聞をとっている家庭は少数派になり、中学生でも「新聞を読んだことがない」という生徒は珍しくない。だからこそ、「難しそう」という印象を和らげ、気軽に新聞に接してもらうことに重点を置いている。

 こうした授業の例が、「イチオシ記事を見つけよう」だ。朝活動などの時間を使って新聞をスクラップし、コメントを書く「NIEタイム」にヒントを得たもので、子供たちに新聞を配り、好きな記事、気になった記事、ときには広告を切り抜いてもらう。それをできるだけ多くの子供に発表してもらい、そのたびに記者がコメントしたり、解説したりする。

 この授業のメリットは、子供たちはさまざまな視点を共有しあって、新聞には多様な情報が載っていると体感できること、自身は興味がなくても、級友の選んだ記事なので関心を持ちやすいこと、成績にかかわらず、誰もが参加しやすいことだ。どの記事を選んでも「正解」であり、記者は基本的に、その視点や感想の良い点を褒めるようコメントしている。

 10月に埼玉県蕨市立第一中学校で、1年生を対象に行った際には「新聞にはいろいろな記事が載っていて驚いた」「おじいちゃんの家なら新聞があるから読んでみる」といった声が聞かれた。

 産経新聞では原則毎週日曜付の朝刊で、主として中高生向けに時事問題を分かりやすく解説する「週刊学ぼう産経新聞」を掲載している。これも新聞を身近に感じてもらう取り組みの一環で、授業での活用も期待している。

新聞の売り場を知らない高校生

 先ほども少し触れたが、昨今の子供たちにとって残念ながら、新聞は身近なものではなくなっている。新聞の構成を説明する際、1面から2・3面へと進むのだが、いわゆる「めくり方」を知らずに、新聞をバラバラにしてしまったり、1面を少しだけ持ち上げて、2・3面をのぞき込んだりする子供がいる。

 先日、NIE活動で関わった都内の高校生に「親が(生徒が載っている)『新聞が欲しい』って言うんですが、どうすればもらえますか?」と尋ねられた。「駅の売店かコンビニで売ってるよ」と平然と答えたものの、内心ショックを受けた。家でとっていないのは仕方がないとして、即売の新聞があることを知らないのだ。つまり、親や生徒の視界に紙の新聞は入っていないし、その生徒がたまたま「例外」とは言えないだろう。

 紙の新聞がネットに取って代わられるのは、時代の流れで仕方ないことだ。そこで、新聞記事は、記者が多方面から取材し、さらにデスクや整理記者、校閲記者などいくつもの人の手を通って、できるだけ正確な記事・事実を伝えようと努力していると強調、「フェイクニュース」の対極にある新聞記事の信頼性の高さをアピールしている。

 NIEの取り組みを取材・制作現場にフィードバックしていくことも必要だろう。教壇に立つNIEの経験は取材記者としての視界も広げてくれるものだと感じている。

筆者・プロフィール

慶田 久幸、戸谷 真美((けいだ・ひさゆき、とや・まみ))
産経新聞東京本社 編集局編集ソリューション室

「新聞研究」2020年12月号掲載
※肩書は執筆当時