“先生”体験から考える

社会を見るための「窓」を開く―元中学校教員の経験を授業にどう生かすか

 「読者に正確に伝えるためにも、分かりやすい文章で事実を的確に伝えたい」(中2)、「読者のことを考えて分かりやすく、見やすく書いている新聞を活用したい」(中1)、「新聞は生活する中で自分に役立つ内容が書かれている。これからは読もうと思った」(小5)、「見出しを考えるのは難しかったけど、授業でいろんなアイデアが浮かんだ」(小4)、「新聞の信頼性の高さや利用方法を知り、今まですごくもったいないことをしたと思った。毎朝新聞を読んでから出かけようと思った」(高3)。これらは授業後の児童生徒の感想である。

新聞って面白くて、役に立つよ!

 小学校では国語の学習に新聞が取り上げられている。中学校では国語の教材や社会の資料として取り上げられるほか、総合的な学習の時間や修学旅行の事前学習で、調べ活動のまとめや報告として新聞形式を利用する取り組みも多い。せっかく出前授業をさせてもらうのだから、このような学校での学習と関連付けることが大切だと考えている。授業の中でゲストティーチャーとして話をする場合でも、授業時間の全部を担当する場合でも、事前に授業の流れをきちんと打ち合わせるようにしている。

 授業では、当日の新聞を配布して、報道やメディアの役割、紙面構成、記事の書き方、写真や図版の使い方などについて具体例を示しながら解説する。児童生徒はそれをもとにして、事前に準備した自分の材料を仕上げていく。出前授業で心掛けているのは、一方的な説明に終始しないように、必ず問いかけて応答してもらいながら授業を進めるようにしていることである。掲載写真からカメラマンの意図を読み取る活動では、ほとんどの子が身を乗り出して写真をながめ、自分の考えを活発に述べる姿がよく見られ、担当の先生も驚かれる。

 従来は、お互いに教えあったり、意見交換しあったりする時間を設けていたのだが、今年度はコロナ禍のため、なかなかそのような場の設定が難しい。教科書などを使った教師からの指導だけですませることもできる中で、このような授業を実施するのだから、「よくわかった」「学習に生かすことができた」「事後の活動に役立てたい」というように、満足感や達成感を味わって、学習意欲を高めてほしいと考えている。

 授業の方針は「新聞って面白いよ。役に立つよ!」である。新聞には報道として情報を提供する役割だけではなく、天気予報、占いなどさまざまな記事が載っている。当社は地方紙であるから、地域のニュースや身近なスポーツの話題、日常生活上の情報もかなりの紙面を割いて提供している。気軽に手に取って読んでもらえるようにすることが大切なのである。「新聞ばなれ」の現在では、学校で新聞を利用した授業が必要なのではないだろうか。

主権者教育もアクティブに

 高校では主権者教育の一環として出前授業を依頼される。選挙管理委員会など講師を招いて講演会を開くほか、実際の投票用紙や記載台、投票箱を使って投票を疑似的に体験する学習が行われる。大学の研究者が研究の一環として、討論の場を設け、生徒の認識や意識の高まりを検証するものもある。私たちの授業では、新聞記事などを使って18歳選挙権の重要性や社会や地域の現状について話すとともに、先生方の協力のもと、候補者として政策・公約を提案してもらい、生徒が支持する提案とその理由を発表しあう活動を取り入れている。これも先述のように現況では話し合いは難しくなっているが。

 冒頭の高3生徒の感想は、高校からの要望を受けて、3年生向けに新聞の特性や活用の仕方を解説した授業のものである。高校では、国語や社会の授業で、受験や就活対策として新聞を利用した作文・面接指導が行われているところも多いようだ。主権者として理念的な理解も必要だが、自らの日常生活と関連付けて自分なりに考えることが大切だ。それこそが選挙を身近にし、主権者としての意識や言動が芽生える一歩だと考える。

 新聞は社会をみる「窓」と考えている。離れた位置からは、窓からみえる範囲、つまり視野が狭くなる。また、窓がどの方向に開いているかによって何を知るかが限定される。できるだけたくさんの方向に開いた「窓」をみることが大切だ。そうしてより窓に近づけば、多様な方向に目を向けるようになる。投書などで若者の意見を取り上げることで、SNSとは異なる発信の場を新聞が提供することになる。新聞の活用は、窓を通して社会との接点を持つことである。

 私はもともと中学校教員で定年退職後に新聞社にお世話になっている。記者や編集の経験はない。したがって本稿は「先生"体験"」ではなく、前職での経験を授業にどう生かすかという観点から記述した。社内ではNIE担当として、出前授業のほか、県NIE推進協議会の事務局、記事・コラムを使ったワークシート作成も担当している。ワークシートは、当社ウェブサイト「佐賀新聞LiVE(https://www.saga-s.co.jp/)」を参照していただきたい。

筆者・プロフィール

多久島 文樹(たくしま・ふみき)
佐賀新聞社 編集本部メディア局コンテンツ部NIE担当デスク 

「新聞研究」2020年8-9月号掲載
※肩書は執筆当時