“先生”体験から考える

新鮮な組み合わせに共感―スマホ時代の新聞

 授業で新聞を活用すると、初めて新聞を手にした生徒たちを含め、多くが「面白い記事がたくさん載っているのを授業で知り、興味を持った」などの感想を寄せてくれる。学年を問わず、どの年代からもそんな「手応え」があるので、読んでくれるようになると期待したいのだが、そうならない現実がある。

 新聞を読むことが、授業の「楽しい体験」で終わってしまい、その後も継続して読むようになって生活習慣にまで定着するには、かなりハードルが高いことを実感している。NIE担当になったのが昨年秋なので、意識して教育現場に足を運ぶようになってまだ1年ほどだが、最近は、生活習慣として新聞を読むようにするにはどうすればよいのかを、日々の課題として工夫している。

まずは電子版に触れてもらう

 「読者部だより」という東京新聞のコラム欄で、授業について「スマホ時代の新聞」の見出しで書いたところ、教育関係者などから意見もいただき、反響があったので紹介したい。以下、9月12日付朝刊紙面からそのまま転載する。

 新聞を読む若者が少ないと言われますが、今やスマートフォンを持たない若者はほとんどいないのが現実。それならと、講義を頼まれた大学で、東京新聞電子版を一週間「試し読み」して、毎日スマホで目を通してもらいました。気になる記事を一本選び、翌週の授業では班に分かれて、自分が選んだ七本の記事を報告し合い、自由に意見交換しました。

 「今まで新聞を読む習慣はないが、授業で機会を得たので習慣にしようと思った。スマホで通学時間に手軽に読むことができ、分かりやすかった。毎日十分だけでも続けると、習慣になり、今では親が購読している紙の新聞も毎日読むようになった。その結果、この参院選への姿勢も変わって、自分の意見を持つようになった」(四年男子)。授業を振り返る学生の前期末リポートを読むと、手応えを感じる言葉が多く書かれていました。

 「視野を広げるため新聞が良いと思い(授業後)デジタルで購読し始めた。SNSを見るだけだった通学時間に新聞を読むと、とても有意義な時間になっている」(三年女子)。まずは読むきっかけづくりが大切ですね。

 短期間とはいえ、毎日読み続けることを体験した学生は、新聞を継続して読む大切さを実感してくれたようだ。今回の工夫は「スマホで通学時間に手軽に読む」ことができるようにしたこと。学生にとってスマホは必需品、ならばスマホを入り口にし、まずは電子版に触れてもらうことから始めると、彼らのハードルはかなり下がることが分かった。

「読み解く力」ネットと一緒に

 さて、そんなことを考えていると、インターネット企業との「コラボ授業」も実現できた。スマホのニュースアプリを提供するスマートニュースがネットでのメディアリテラシー教育に力を入れており、リテラシー教育のチームがあるのを知って、一緒に何かできないかを意見交換したのがきっかけ。

 インターネット業界は今、ネットメディアの信頼を揺るがす問題の解決を図ろうと、インターネットメディア協会(略称JIMA、代表理事・瀬尾傑スマートニュースメディア研究所所長)を発足させるなど、「送り手」の信頼を高める努力をしている。一方で「受け手」の正しい情報判断能力=メディアリテラシーを育てる取り組みに力を入れていくというので、「何をするの?」と聞いてみると、「ネットニュースで、どんな見出しを付けると一番伝わるか、学校の授業でワークショップを始めている」という。ネット上には、クリックを多くさせる狙いの「釣り見出し」などもあり玉石混交で、正確に伝える見出しを考えさせる内容とか。それなら新聞の見出しが培ってきたものですよ。「そうです、新聞の優れた面を学び、読み解く力を高めたいと考えています」と担当者。じゃあ連携しようよと話が弾み、一緒に取り組むことになった。

 7月に二つの大学で、学生が「ネット記事の見出し」を自分たちで考える内容の授業に取り組んだ。スマートニュースの方に進めてもらった内容は、学生たちには必需品のスマホとあって、とても身近で関心も高かった。その後に、工夫したのは、スマホ画面の奥には「新聞」という存在が欠かせないことを学生に理解してもらう授業の展開。ネットの中での新聞の役割を議論した。

 この授業を含めた私の取り組みを、8月に開かれた日本図書館協会学校図書館部会の夏季研究集会で報告する機会を得たので、「教育現場で記者をもっと『活用』しよう~新聞を読む授業実践の報告~」のテーマで話をした。参加した教員や学校司書の方々が、スマホと新聞の組み合わせを新鮮に受け止めたのか、共感してくれたようだった。今、研究集会の「報告書」の編集作業が進んでいる最中だが、寄せられた感想には、次のように書かれていたので、参考に。

 「スマートニュースとの連携について、そこまできているのかとビックリしました。生徒たちにとっては身近な存在のスマホを活用するというのは、彼らにとっても問題意識が持ちやすいと思いました」「新聞やスマホがコミュニケーションの道具として......という発想は、とてもおもしろい」「インターネットの先に新聞があるという意識を、生徒に持ってもらえたらと思いました」など。

 この「報告書」、私の報告内容も掲載されており、「学校図書館から考える情報の信頼性─インターネット・新聞・ニュース......時事的な情報とどう向き合うか─」のテーマで近く出来上がるので、関心があればお読みいただければと思う。これを機会に、学校図書館との連携をもっと密にし、広げていこうと考えている。

筆者・プロフィール

鈴木 賀津彦(すずき・かつひこ)
東京新聞(中日新聞東京本社) 編集局読者部編集委員

「新聞研究」2019年11月号掲載
※肩書は執筆当時