“先生”体験から考える
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新聞を読む授業の充実を―子どもたちに身近な存在を目指して
「やっと僕たちの学校に記者さんが来てくれた」「このチャンスを待っていた」。若者の新聞離れが懸念される中、小学校を訪問した時の児童たちの反応に驚かされる。
「このチャンス」とは、小学校や地域の魅力、自慢などを各小学校の5、6年生が取材し、四国新聞の記者と一緒に紙面を作る「小学校新聞」のこと。本紙で展開している子ども新聞「こどもニュース&スポーツ」の人気コーナーだ。
児童たちは、昼休みや放課後などに校内外で取材し、1週間ほどで3本の記事を仕上げてくれる。紙面が出来上がった時には「新聞の面白さが分かった」「将来は記者になりたい」との感想も。"先生"としての苦労が喜びに変わる瞬間だ。
「教員はノータッチ」が基本
新聞作りの授業では「一緒に楽しく」という視点を重視している。児童たちが書きたいことを尊重するため、編集会議には、子ども記者と四国新聞記者のみが参加する。教員や校長らの意見や思惑が反映されてしまうと、新聞作りの意欲低下を招く恐れがあるからだ。
児童が書いた記事も、「教員はノータッチ」が基本。デスク担当の四国新聞記者と児童たちで話し合って記事を修正する。見出しも考えてもらっているが、日ごろの生活で新聞を読んでいない大半の児童は、見出しと作文のタイトルの区別が付いていない。そこで、「筆者が何を伝えたいのかを10文字以内で考えよう。国語のテストと同じですよ」と付け加える。すると、プロの整理記者が思い浮かばないような見出しが提案されることもある。
子ども新聞の担当記者として、1週間に3、4校の小学校を訪問しているからこその「気付き」もある。それは、新聞にちなんだ取り組みをしている学校が多いということ。クラスの魅力をまとめて新聞を発行する▼社会で学んだ歴史上の人物を調べて新聞を作る▼投書記事を書いて四国新聞に投稿する─などに取り組んでおり、写真やイラスト、オリジナルの4コマ漫画まで入った本格的な新聞も見られる。
ただ、その多くが「新聞記事を読んで情報を得る」のではなく、「新聞を作って情報を発信する」という取り組み。1学期の国語の授業で、新聞記事の読み比べに挑戦した5年生に感想を聞いたところ「あまり分からなかった」。6年生になると「1年前の授業なので覚えていない」という声が大半を占める。新聞に与えられた貴重な授業時間が、有効に使われていない現状がうかがえる。
「どのような授業が行われているのだろうか」と疑問に思い、教員が使っている国語の教科書を見せてもらった。率直な感想は「この補足説明だけで、新聞を読むこつを指導するのは難しい」。教員側も「写真やキャプションの違いで、記事の印象が大きく異なるという程度の授業にとどまっている」と話す。NIE(教育に新聞を)の担当記者として小学校を訪問する際、学校側から「新聞記事の読み比べの授業をしてほしい」という要望が多いのも納得できる。
新聞を読む力を育み、読む習慣を身に付けてもらうには、指導する教員自身に新聞の魅力を理解してもらうことが大前提。新聞に与えられた授業時間を有効なものにするためにも、今後はNIEだけでなく、教員対象のNIB(ビジネスに新聞を)を展開するなどし、学校現場の人材育成に努めるという視点が必要だろう。
親世代とのギャップ
新聞を定期購読している世帯の減少は、学校の授業にも影響しているようだ。ある教員は「昔と比べて、授業で新聞を活用することができなくなった。『書写の授業で使う新聞を持って来て』とも言えない」とこぼす。
そのような教員には、児童たちが出合った記事について他の人と話し合う「まわしよみ新聞」の授業を提案している。学校で購読している新聞をストックし、その中から児童たちに気になる記事を切り抜いてもらい、複数の記事を大きな紙に貼り付けてオリジナル新聞を作る取り組み。同新聞に自分の意見を書き込んだり、友達同士で新聞を交換して意見交換したりすることで、読解力や考察力なども養える。
挑戦した子どもたちは、インターネットで紹介されているニュースとは異なり、見出しの大きさやレイアウト、文字の量などで「ニュースの価値」を知ることができるなどと好意的。教員からは「新聞の魅力を簡単に子どもたちに示すことができる」との声が聞かれる。
しかし、学校現場でどんなに啓発をしたとしても、新聞を読みたいという子どもたちのニーズと、親世代の価値観とのギャップを埋められなければ、購読者を増やすことはできない。
そこで注目したいのがシニア世代。新聞を購読していない世帯でも、「祖父母の家で新聞を読んでいる」「祖父母が気になった新聞記事を持って来てくれる」という児童は多い。「子どもたちに未来の購読者になってもらうための一助をシニア世代が担っている」と言っても過言ではない。今後の新聞作りでは、「シニア世代が考える、子どもたちに必要な情報とは」という視点も必要だろう。
近年は、企業の新人研修の一環としてNIBの講師を依頼されることも増え、新聞の読み方や入手した情報の活用術などを紹介している。ここで心掛けているのは、新聞は堅いという新社会人のイメージを払しょくすること。このイメージこそが、「新聞を毎日読む」ことへのハードルを高くしている。「生活の中に新聞を」という視点で、新聞の魅力を示すことが、新聞を身近に感じてもらえる第一歩になると信じている。
筆者・プロフィール
- 南原 雅仁(なんばら・まさひと)
- 四国新聞社 報道部課長
「新聞研究」2019年8-9月号掲載
※肩書は執筆当時