“先生”体験から考える
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郷土愛醸成と学力向上目指す―出前授業講師からの報告書を全記者で共有
地方創生をテーマに山形新聞が提唱する「1学級1新聞」の取り組みが3年目に入った。子どもたちが等しく新聞を手に取ることができるよう、学校の各クラスに新聞を届け、郷土愛の醸成などを図るのが狙い。「毎日、教室で紙面を広げるのが日課になった」「山形県のことを学び、将来は古里に貢献したい」。児童生徒からはこんな感想も寄せられ、着実な進展を実感している。
教育格差の解消につなげる
本県をよく知ることで古里への愛着を強めてもらうと同時に、読解力向上による学力アップ、また経済格差による教育格差の解消につなげるのが、「1学級1新聞」の目的だ。小中学校では、山形県教育委員会が2017年度から市町村の新聞購読費の半額を補助しており、教室への新聞配達は全県的に広がっている。高校については、山形新聞社OBの篤志で設立された「鈴木基金」が協賛企業とともに購読費を負担し、県内全ての私立高と実業高の各クラスに山形新聞を配達して教室で新聞に親しむ環境を整えている。
「1学級1新聞」の推進に向け、当初から展開してきたのが、出前授業「新聞の読み方講座」。まずは児童生徒に新聞を身近に感じてもらうため、▼バリューを判断して見出しでニュースに強弱を付けている▼見出しを読むだけで記事の中身が分かる▼記事は第1段落に5W1Hを盛り込み、大事なことから書く逆三角形の構成─といった新聞の特徴などを解説している。講師は報道部、各支社の中堅以上の記者が担っている。その様子を紙面で紹介したところ、企業や女性グループ、市民団体などから開催依頼が相次いだことから、これらに応える形で順次、対象を拡大した。企業や業界団体が対象の講座は、「NIB(ビジネスに新聞を)出前講座」として定着。受講者の年代や構成を踏まえて内容をアレンジし、試行錯誤を重ねながら繰り広げている。
話を「1学級1新聞」に戻す。今年1月、取材で私立高を訪ねた小紙記者が、1年生の男子生徒からこんな報告を受けた。「中学の頃から教室で新聞を読んでいたおかげで習慣化した」
男子生徒が通っていた中学校の教室にも新聞が配達されていた。学校が変わっても身に着けた習慣を持続できた。「鈴木基金」による私立高への「1学級1新聞」事業がもたらした成果である。
新聞が配達されている学校の多くは、ホームルームで担任教諭が当日の話題を紹介したり、日直が興味のある記事を学級日誌に貼ったりして、新聞活用に取り組んでいる。教諭らは「ニュースを知ることで、校外に意識が向くようになった」「文章の勉強や考える訓練になる」と指摘する。地域社会に視野を広げることは、「18歳選挙権」を踏まえた主権者教育の観点からも意義があると言えるだろう。
「新聞の読み方講座」では、講師を務めた各記者に報告書の提出を求めている。若手を含めて全記者に配布することで経験を共有している。報告書を読むと、総じて児童の反応がいい。児童は説明の一つ一つに「本当だ」「見出しの大きさが違う」などと声を上げ、自らの知識が増えたことを喜んでくれる。
ヤングママが高い関心示す
また、20~30代の母親たちが新聞に対して高い関心を持っていることも新たな発見だ。講師を務めた記者によると、紙面構成の特徴や時間がない中で効率的に読むこつ、新聞を読んでいる子は学力が高いとのデータの説明にうなずきながら聞き入り、新聞にどんどん興味が向かっていくのを実感するという。
"ヤングママ講座"は、講師の側も小学生や保育園児の母親である記者に担当させている。子どもと一緒の受講もOK、子育て支援センターや地域公民館を会場に車座になって進めるスタイルで、先生や上司はいない。回数はまだ10回に満たないが、どの回も、若い母親たちは子どもがぐずっても退室せず、抱いてあやしながら熱心に耳を傾けるという。「新聞は難解というイメージが変わった」「イベントコーナーは県内の催しがまとまっていて、ネットより便利」「子どものため、ぜひ購読したい」「夫が新聞を取ることに否定的」。和気あいあいとした雰囲気もあってか、その場でざっくばらんに具体的な声が聞けるのも特徴だ。児童たちの反応と併せ、将来に向けて期待が膨らむ要素と言える。
対して、講座に対する高校生、大学生の反応の乏しさが気掛かりだ。報告書を読むとやはり、私自身の講師経験と同様、学年が高くなるにつれ、説明を理解してくれたのか否かがつかみにくいほど、反応が薄くなる傾向にある。講話後の質疑応答の数も少なく、明らかにこちらの話に無関心だったり、残念ながら居眠りをしたりしている姿もちらほら。もちろん、一様に無反応化している訳ではなく、まじめに受講している生徒、学生もいる。反応の強弱が講座の理解度を示すバロメーターではないし、年齢とともに受講態度が大人びていくのも当たり前。それでも、ちょうどスマートフォンやパソコンを手にし情報収集をインターネットに委ねる生活を送り始めたばかりの年代で、情報媒体としての新聞の存在が眼中にないのでは、と危惧せずにはいられない。どう浸透させていくかが大きな課題だ。
就職活動や新入社員対象の講座を機に新聞に目を向け始める若い人たちもいるが、われわれの目標はあくまで地方創生。子どものころから絶えず新聞に触れ、郷土愛を育んだ優秀な人材が地元に定着して活躍し、地域活性化をリードする。そんな人材が輩出するような社会づくりに結び付くことを願い、取り組んでいる。
筆者・プロフィール
- 保科 裕之(ほしな・ひろゆき)
- 山形新聞社 報道部長兼新聞による学び推進室長
「新聞研究」2019年5月号掲載
※肩書は執筆当時