“先生”体験から考える

新聞の面白さ どう伝える ―小学生から教わった「勉強」の大切さ

 先日、会社に出勤すると私宛てに1通のはがきが届いていた。「このあいだは学校に来てくれてありがとうございました。ぼくの将来の夢は新聞記者です」。出前講座で訪れた小学校の児童からの残暑見舞いだった。差出人は熱心に質問をくれたあの子だろうか。よく見ると消しゴムで何度も消した跡が残っていて、鉛筆を握り一生懸命書く様子が思い浮かんだ。ほほえましさとともに、記者の仕事の魅力を伝えられたのではと、うれしい気持ちになった。

記者の仕事に強い好奇心

 小学校での講座を担当し始めたのは2018年度からで、これまでに4回講師を務めた。最初の頃は、児童はこの職業に関心があるのかと疑問だった。不安を抱えながら教室に入ったが、話し始めると懸念は吹き飛んだ。目をキラキラ輝かせながら聞いてくれる児童の表情が忘れられない。

 講座では、記者の仕事内容や新聞の読み方を、実際に新聞を開きながら教えている。社会部の事件事故担当として、1日に警察に何度も行くことを説明すると、多くの子どもに驚かれる。記事の書き方を教える際には、人気アニメの「ドラえもん」に登場してもらう。のび太がテストで0点を取って怒られ、ドラえもんに道具を借りて満点を取る─というストーリーを記事に仕立てるとどうなるのかを示しながら、大切なことを最初に書く「逆三角形」の文章スタイルを解説している。写真についての説明では、一眼レフカメラでストロボをたきながら連写して見せると喜ばれる。

 質疑応答では、質問が次から次へと飛んでくる。「どんな凶悪事件を取材しましたか」「有名人を取材したことはありますか」など。終了時間になっても挙手が止まらず、休み時間に突入したこともあった。記者の仕事に対する好奇心の強さをいつも実感している。

 ただ、残念だがこうした児童の様子を見て感じるのは、小学生に関心があるのは記者という"職業"で、"新聞そのもの"ではないのでは、ということだ。記者はドラマや映画、小説で登場することが多く、子どもにとっても興味深い職業なのかもしれない。目の前にいる現実の新聞記者が実際にどんな生活を送っているのか、気になる子どもは多いように思える。しかし、こうした職業への関心が日頃から新聞に親しむ習慣につながるかというと、疑問を感じる。新聞をより多くの子どもに読ませるためには、講座で仕事の魅力を知ってもらう以上に、新聞の面白さを伝え、読んでみたいという欲求をどれだけ喚起できるかが重要だ。

新聞を読む楽しさを伝えたい

 「ニュースは普段、何で見ていますか」。小学生にはいつもこの質問を投げ掛けている。残念ながら「新聞」と答えるのは毎回、わずかな人数しかいない。圧倒的に多いのは「テレビ」で、9割以上が手を挙げている印象だ。着目すべきは「インターネット」の少なさ。先日行った学校では、5年生約120人のうちインターネットと回答したのは数人で、新聞と同等かそれ以下だった。

 一因として考えられるのは、スマートフォンを持っている小学生が少ないことだろう。ニュースに触れるのは、テレビを見ながら過ごす朝晩の食事中が中心のようだ。それでも、この児童たちも中高生になればスマホを持ち始め、インターネットを閲覧する時間が長くなることは容易に想像できる。

 子どもがインターネットで情報収集を始めるとどうなるか。おそらくニュースはネットで読めば十分、と感じるだろう。ネットの快適さに慣れてしまった子どもが、紙の新聞を開く必要性を自発的に認識するとは考えにくい。となると、ネットをそれほど使わない小学生の段階で新聞の面白さを教え、読む生活習慣を身に付けてもらうことが大切と言える。

 こうした考えから、仕事の魅力以上に新聞を読む楽しさを伝えることを、講座では重要視するようにしている。最近は読み方について「全部読むのは無理」「面白そうな記事だけ読めばいい」という点を強調しながら、学校イベントやアニメ関連、地元の話題など小学生にも関心のありそうなジャンルの過去記事を紹介した。静岡県在住の人気ユーチューバー「はじめしゃちょー」のインタビュー記事を見せたときの歓声はすごかった。子どもでも楽しめる記事が新聞に載っている、ということは伝わったと思えた。

 とはいえ、子ども受けするキーワードで検索してヒットした"過去"の記事で引きつけるのは、小手先の対応に過ぎない。新聞を毎日読みたいという気持ちを小学生に抱かせるには、その日の朝刊を開きながら、"リアルタイム"のニュースを小学生にも伝わるように面白く解説しなければならないだろう。

 残暑見舞いの結びにはこうあった。「たくさん勉強して夢を叶えたいです。相松さんもがんばってください」。図らずも小学生からエールをもらってしまった。子どもに新聞の魅力を伝えるには、記者の私こそニュースをきちんと理解するため勉強を重ねなければならない。背筋がピンと伸びる思いがした。

筆者・プロフィール

相松 孝暢(あいまつ・たかのぶ)
静岡新聞社  編集局記者

「新聞研究」2019年1月号掲載
※肩書は執筆当時