“先生”体験から考える

紙面作り体験で興味喚起―学生が企画、執筆「大学生タイムズ」スタート

 トップ記事は「スマホ断ち」。2番手は「留学のススメ」─。9月から福井新聞の紙面でスタートした大学生新聞「大学生タイムズ」の紙面だ。福井県内四つの大学の学生に毎月1回、1面を担当してもらう。3~8人がグループになって、編集会議を行い、企画を練り、取材し、記事を書いてもらっている。

 福井新聞ではこれまで、小中学生を対象にしたタブロイド判の「こどもタイムズ」や、中高生を対象にした本紙組み込みの「中高生タイムズ」を展開してきた。今回の企画は大学生にも興味を持ってもらおうとの趣旨だ。友だちが作った紙面なら読んでみようと、学生の新聞購読のきっかけになるかもしれない、と期待もしている。

学生の自主性を大切に

 実際の作業は、NIE担当の記者とともに各大学の学生課や知り合いの教授のもとを訪ねて、新聞作りに興味を持ってくれそうな学生を紹介してもらうところからスタートした。希望する学生に集まってもらい編集会議をして、記事のテーマを決めていった。

 会議には私たちも加わり「社会性に富んだ関心のある話題がいい」「2番手の記事は学内の話題や教授の記事かな」「友人にアンケートをしたり、専門的な大学の先生に話を聞いたりすると記事に厚みがでる」などと学生たちに水を向ける。ただ、決して強制はしない。「自主性」を大切にした方が学生らしい紙面になるのでは、との思いからだ。

 こうして出来上がった第1号が先の大学生新聞だ。見出し付けなど整理作業は新聞社で行ったが、アイデアは学生。「スマホ断ち」は、学生3人組がスマホを使わずに普段よく行くファストフード店や食べ物屋さんを車で巡る体験記。いきなり車を反対方向に走らせたり、目的地まで通常の倍以上の時間がかかったりした"奮闘ぶり"が記されている。

 最初、原稿を読んだとき「本当か......」と学生の方向感覚にあきれもしたが、炎天下の中で地元のお年寄りに勇気を出して道を尋ねて、ようやく目的地に到達した─とのくだりはほっこりさせられた。私たちは「スマホ断ち」なんて言葉は無縁のおじさん世代だ。知恵を絞った学生たちの企画は正直、面白いと感じた。

 記事のサイドとして、「スマホとの接し方」をテーマに元外交官の福井大特任教授にも取材している。原稿の中で特任教授は、ネット空間と実社会の両方でリテラシーを高めてほしいと学生にアドバイスを送る。便利なネットを否定せず、上手に付き合ってほしい─。どこか優しさを感じるのは、普段接している学生から直接取材を受けたからだろう。

 学生グループとの直接のやりとりはNIE担当の記者が担った。いまどきの大学生は学業が忙しい。その上、夏休みはアルバイトをしたり、自動車学校に通ったり......。3年生になるとインターンシップや教育実習なども入ってくる。担当記者は、足りない取材を指摘し、表現の手直しなどを丁寧にやりとりした。あまり直すと学生らしさがなくなる。かといって、意味が通じなくては困る。通常の取材との違いに苦労したようだ。

主体的なワークショップとして

 普段、私はNIB活動として企業を訪ねて、新聞の読み方講座や新聞活用講座を行っている。ネットが普及し情報量が増える中で不確かな情報がはんらんしていることを説明。一方で、新聞記事はデスクらによって何重にもチェックされ、各紙面にはいろんな話題が掲載されていることを強調する。職場やお客さんとコミュニケーションを深めるために、地域の経済情報や地元の話題が掲載されている新聞を読む大切さを訴える。

 大学生新聞はNIB講座のように新聞社側が一方的に教えるのではなく、グループで企画を考えてもらい、記事を書く「新聞ワークショップ」と考えている。今の大学生は就活するときには新聞を読むが、就職が決まったとたん新聞を読まなくなる、とも聞いたことがある。実際、NIB講座で新入社員に「新聞を今朝、読んできましたか」と尋ねると、手を挙げてくれるのは1割ほど。毎回、寂しさを感じている。

 今回の取り組みによって、知恵を絞った企画が実際に紙面化されて読者に読んでもらう喜びを学生に感じてもらえたら、と思う。そして、新聞作りへの参加をきっかけに紙面への関心や新聞社への興味が高まることを期待したい。

筆者・プロフィール

薮内 弘昌(やぶうち・ひろあき)
福井新聞社 編集局みんなの新聞部長兼記者センター長兼論説委員

「新聞研究」2018年11月号掲載
※肩書は執筆当時