“先生”体験から考える

「わくわく」が止まらない ―新聞は多様な使い方が可能なツール

 新聞講座に行くたびに、子どもたちに聞いている質問がある。「おうちで新聞を取っている人はいますか」

  手が挙がるのは多くて7、8割。ちらほらしかいないクラスもある。NIE事務局に来て3年半の間にも、残念ながら「新聞離れ」は進んでいると感じる。

 ただ、子どもたちから「新聞は難しいから嫌い」とか「面倒だから読まない」という否定的な返事が返ってくることは、まずない。新聞を配ればどんどんページをめくって、自由に読み進めていく。悲しい事件には真剣なまなざしになり、楽しい話題には自然と笑顔がこぼれる。そんな光景は、新聞に携わる者としてとてもうれしく、また新聞講座の意義を再確認させてもらえる瞬間でもある。   

 中日新聞の「わくわく新聞講座」は、小中高校や公民館などから依頼がある。内容は「新聞記者の仕事について話してほしい」「地域調べをするので取材する時に気をつけていることを教えてほしい」「学習新聞の作り方が知りたい」など、さまざま。規模も数人から数百人と大きく異なるため、講座の進め方は毎回試行錯誤の連続。幸い、職場には元校長や教員OBがいてくれるため、アドバイスをもらいながら取り組んでいる。

新聞が社会との接点に

 これまでの講座の中でも特に印象に残っているものがいくつかある。ある就労支援施設もその一つだ。

  「社会に出る前に、新聞について学ばせたい。学校ではないけど、来てもらえますか」。施設の女性職員から問い合わせの電話を受けた。若者10人ほどが利用しているが、コミュニケーションに自信がない人も多いため、外との接点を持つ意味でも新聞に触れさせたいという。ただ体調が不安定な人もいて、当日になってみないと受講人数が決まらない、とのことだった。

 希望時間は90分間。これまでに担当した講座は話す時間配分を含め、きっちり準備していくことがほとんど。だが今回は臨機応変に対応しようと、新聞について簡単に説明するパワーポイントとその日の朝刊を人数分だけ用意して臨むことにした。

 できるだけ打ち解けた雰囲気の中で進めたかったため、気が向いた人と雑談できればと、少し早めに行かせてもらった。すると、部屋にはすでに7人が着席して待っていてくれた。 急いで朝刊を配ると、「今日ってどんなニュースがあった?」と紙面を見ながら、誰彼となく話が始まった。その輪に入るような形で、取材や紙面作りの解説をしたところ、興味津々の面持ちで聞いてくれた。記事だけを見せてその見出しを考えるクイズには、隣の部屋にいた人も急きょ参戦。その後の話し合いも盛り上がり、拍子抜けするほどだった。 フリースクールでの講座でも、こんなことがあった。

 ここには、何らかの理由で地元の学校に通っていない小学5年生から高校生約10人が通学している。できるだけ他の人を意識しながら表現する機会を作りたいと、月1回の学校新聞作りに取り組んでいた。これまで作った新聞を見せてもらうと、残念ながら記事の多くは先生が担当していた。尋ねると、子どもたちは自分自身を表現することに慣れていない上に、「書く」ということが加わると、とてつもなくハードルが高いと感じてしまうという。

  「ならば、そのハードルをみんなで飛んでみましょう」。こちらが後押しするので、次の学校新聞は生徒主体で作ろうと提案した。

 先生も快諾してくれ、編集スタッフを募ったところ、6人が手を挙げてくれた。中学1年の男子生徒は、短期留学したニュージーランドでの体験を紹介。中学3年の女子生徒は、大好きなヘアアレンジの魅力を書いた。「渡した原稿用紙では足らないと追加でもらいに来た子もいた」と先生もびっくりするほど、みんな熱心に取り組んでいた。完成した紙面を手にした子どもたちは、自分たちが伝えたいことが一つの形になり、とても喜んでいたという。

もっと面白さを伝えたい

 NIEの講座を通じて、新聞の面白さにあらためて気づいたのは、他ならない私自身だ。教育現場でこんなにもいろいろな使い方ができるツールを、もっと多くの先生たちに知ってもらいたいと思う。

  その先生の「卵」が通う愛知教育大(愛知県刈谷市)でも講座を担当している。美術専攻の学生を対象とした講義(15コマ)では、3、4人のグループでテーマを決めて取材し、A3判の新聞を完成させるのを課題にしている。

  興味深いのは、最初は一歩引いている学生でも、作業が進むに連れて、決まって前のめりになって取り組むようになることだ。大詰めになると深夜にもメールで質問してきたり、何度も手直しした紙面を送ってきたりと一生懸命だ。「こんなにきつい課題は久々です」とこぼしながらも、楽しみながら作っているのが紙面からも伝わってきて、うれしくなる。

 新聞の面白さをもっと伝えたい。そうすれば「NIE半端ないって!」......とまではいかなくても、新聞好きの先生や子どもたちが、あちこちでひょっこり顔を出してくれるかも─。そんなことを考えながら、「わくわく」している。

筆者・プロフィール

酒井 ゆり (さかい・ゆり)
中日新聞社  整理部(前新聞・教育センターNIE事務局)

「新聞研究」2018年9月号掲載
※肩書は執筆当時