“先生”体験から考える

きっかけづくりの大切さ―若年層との接点を増やす挑戦は続く

 5年ほど前の受験シーズン、都内のファミリーレストランで目にした光景にショックを受けた。モーニングサービスとして各テーブルの上に朝刊が置かれていたが、受験生らしき女子高生は席に着くなりスマホの操作を始め、最後まで新聞に目もくれなかった。彼女にとってそれはまるで存在しないかのようだった。

 新聞を読まなくなった、と言われる若年層。彼らの意識と新聞記事のスタイルの乖離も言われるが、手にしてさえもらえれば、接点さえ持てれば、というもどかしさを感じることは少なくない。

新聞から未来の自分を考える

 先日、山梨県内の短期大学校で生徒約70人に、就活に向けた意識付けと絡めて新聞の意義について話した。各自新聞1部を手にしてもらい、話す前に黙って読む時間を設けると、意外なほど熱心にページをめくる姿があった。スマホに触れない授業中ということもあるが、講義後のリポートに「手元にあるとついつい夢中になって読んでいる自分がいました」と書いてあるのを見て、きっかけづくりの大切さを実感した。

 新聞に触れながら学んでもらうきっかけづくりとして、最近、担当記者が手応えを感じたのが、ある県立高校に3回にわたって出向き、1クラス20人を対象に行った「山梨未来NOTE」という取り組みだ。昨年10月の衆院選に合わせ、18歳となって初めて一票を投じることになる高校3年生に、新聞を通して政党や候補者の公約・政策を比較し、自分たちの将来の姿を見据えながら、投票行動について考えてもらった。

 まずは18歳が生まれた1999年から61歳となる2060年までの出来事を記した年表を朝刊に掲載。その紙面を利用し、社会人となる年代や職業、「25歳までにマイホーム」「28歳で第1子出産」など、未来のイメージを書き込んでもらった。それを踏まえ、増税、子育て支援、介護の充実など、各自が気になる座標軸を設定し、各党の公約を比較。投票後は「本当に公約が実行されるかに注目する」など、未来の自分との約束も記入した。

 生徒からは、授業前は「投票に行くのが面倒くさい」としか考えていなかったけど「未来の年表を見て将来が心配になり、各党の公約を見ながら自分の問題に引き寄せて考えた」との声も。18歳選挙権導入で主権者教育の重要性が言われるが、教師が授業の中で選挙を取り上げるのは神経を使うだけに、記者が出向き、新聞を使って考えてもらう手法は、主権者教育の今後の可能性を感じさせた。

 記事にした4回分の新聞を、1クラスの全員分購読してもらったため、他の記事も含めて休み時間などに話題にするという習慣にもつながったようだ。「次の選挙の時に、また新聞を開いてもらえるのでは」。担当記者は期待する。

 子どもの頃から新聞に触れてもらう取り組みとしては、小中学校を中心にニュースカー「山日メディア1」を出動させる学校新聞作りの出前講座がある。メディア1は中型バスを改造し、編集作業用のパソコン、新聞を印刷するプリンターを装備した車両で、05年に導入した。

出来上がった新聞に笑顔

 学校には2~3か月間に3回出向き、1回目は新聞の概要や記事の特徴を紹介した上で、何を取材するか編集会議を開く。2回目は、子どもたちが校外学習などで取材して書いた記事に記者が赤を入れた上で、写真選びや見出し、題字などを考える。それを踏まえて記者がレイアウトを完成させ、3回目の授業でメディア1が出動して紙面を印刷する。

 年間5、6校に出動し、14年目となる取り組み。クラスの数だけ記者が出向くため、負担は決して軽くないものの、出来上がった新聞を手にした子どもたちの笑顔は、何にも変えがたいものがある。

 普段は1対1の取材が多いが、教壇に立って大勢の前で話をする経験は、分かりやすく伝える訓練にもなってきた。子どもたちの記事に赤を入れる作業は、デスク業務の一端を経験することにもなり、若い記者には勉強になる。ただ、この手法は新聞社側にお任せとなる傾向もあるため、教師の側にもっと積極的に関わってもらうことが課題となっている。

 今年から始めたのが、山梨県立大との包括連携協定。インターンシップ・キャリア形成支援や新聞の活用促進などを狙いとしている。まだ緒に就いたばかりだが、「先生」としてだけでなく幅広く記者と学生の接点を増やし、新聞に触れるきっかけづくりに、という挑戦は続く。

筆者・プロフィール

保坂 真吾(ほさか・しんご)
山梨日日新聞社 編集局次長総合デスク兼読者センター長

「新聞研究」2018年7月号掲載
※肩書は執筆当時