第14回NIE全国大会(長野)
NIE、身近に引きよせるために
パネルディスカッションは「NIE、身近に引きよせるために」をテーマに、授業での新聞活用やNIEに取り組む教師の輪を広げるための方策が話し合われた。冒頭、信濃教育会NIE研究調査会の市川文夫委員長(千曲市立更埴西中学校長)が、「長野県NIEの現状とこれから」と題し基調提案した。引き続き、同県NIE推進協議会会長の澁澤文隆・信州大教授をコーディネーターに、持田浩志・東京都武蔵村山市教育長、広川芳守・長野市立吉田小学校教諭、古畑理絵・札幌市立宮の森中学校教諭、畑光一・信濃毎日新聞社読者センター次長のパネリスト4氏が、意見を交わした。
基調提案 | 市川文夫氏 信濃教育会NIE研究調査会委員長(千曲市立更埴西中学校長) |
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パネリスト | 持田浩志氏 東京都武蔵村山市教育長 広川芳守氏 長野市立吉田小学校教諭 古畑理絵氏 札幌市立宮の森中学校教諭 畑光一氏 信濃毎日新聞社読者センター次長 |
コーディネーター | 澁澤文隆氏 信州大学教授(長野県新聞活用教育〈NIE〉推進協議会会長) |
基調提案
市川 県内教職員で組織する信濃教育会が昨年度、小中学校の教師を対象に行った調査では、約8割が授業等で新聞を使用した経験を持っている。しかし、教師に「NIEは新聞社の販売戦略ではないか」といった意識があるからか、NIEの意味を知っている教師は約54%にとどまっている。新聞は全教科、全学年で活用されており、「社会に対する関心が高まった」など、その効果を評価する声がある一方で、「内容が難しい」との声も多い。調査結果には、新聞を利用したいが内容の難しさに困惑している教師像が表れている。
NIEを広めるための課題としては、まず「はじめに新聞活用ありき」であってはならないことが挙げられる。新聞活用は教師の意欲に支えられている。「子どもの目が輝く授業がしたいという願いありき」であれば、困難な教材化も乗り越えられる。2点目は教師の新聞に対する理解をもっと深めること、3点目は新聞を読む教師を増やすことだ。特に20~30歳代で新聞を毎日読む教師をいかに増やすかが課題だ。
新聞社の中で、教師が困難を抱えて実践していることを考えてくれている人、分かって新聞づくりをしてくれている人はいったいどれだけいるのだろうか。新聞活用を願う新聞社の人々と、活用したい教師の思いが重なったところにあるのがNIEなのだとすれば、NIEに関する研修の場は新聞社にとっても大切な場なのではないか。しかし、取材記者や担当役員以外で新聞社から自ら研修目的で来た人を見たことがない。もっと研修に参加し、ともに学んでほしい。そして、学んだことを記事や紙面作りに生かしてほしい。
パネルディスカッション
――NIEとのかかわりは
持田 20年前に初めて東京でNIEの授業研究が始まった際に担任としてかかわった。その当時からNIEの大きな課題は変わっていない。教育課程での位置付け、教材としての可否、子どもたちにどのような力を身につけさせたいのか――の3点だ。改善されたのは、全国で優れた実践が公表され議論の積み重ねができたことと、新学習指導要領に新聞の活用が位置付けられたことだ。
広川 昨年から実践指定校になった。それまで吉田小でNIEを知っている教師は少なく、実践している教師はほとんどいなかった。そういう学校が圧倒的に多いのではないか。素人の代表として問題点や感じたことを率直に話したい。
古畑 北海道の推進協議会では、学習会やセミナー、実践交流会を開いており、2009年度の実践指定校は計55校(協議会の独自認定校含む)となった。勤務する宮の森中では昨年度、国語・社会・道徳などで実践を行い、道の研究大会も本校で開いた。生徒には、多面的なものの見方を身に付けさせることなどを目的に記事の比較読みをさせている。
畑 読者センターでは、県内の小学校を訪ねて新聞の作り方について話している。県の推進協議会事務局も兼ねているので実践指定校の公開授業を見学する機会も多く、これまで150校ほどを訪ねている。
――長野県ではNIEが浸透していないように感じる。新聞を授業で活用するにあたって、そもそも教師が新聞を読む時間を確保できない環境にあるのではないか
持田 新聞を教材にすることをNIEのメーンとするならば、教師が新聞を読まなければならない。しかし、子どもたちが新聞を読む、教室に持ってくるだけでもNIEは成立する。記事を授業で使うことだけをNIEと考えているのならば、それは違うのではないか。
広川 新聞を教材化するのは小学校では難しい。時間も手間もかかるので、同じ効果が得られるのであれば時間がかからない方を選ぶ。ほかにもやらなければならないことは山ほどある。多忙を極める教育現場に今のNIEのやり方は合わない。それが、なかなか広まらない原因なのではないか。
――NIEをどのようにとらえているか。情報教育の核になると思うがいかがか
持田 新聞記事を教材として使うことも一つのNIEだが、私はもう少し広くとらえている。武蔵村山市で新たに設ける小・中一貫校では、教育課程の中に新聞教育を位置付けて教科横断的に取り組む。単に記事を授業で使うだけではなく、家庭学習や学校経営、学級経営に活用する視点だ。
広川 NIEを広げるには、さまざまなメディアがある中で、なぜ新聞を使うのかをはっきりさせないといけない。他の教材ではなく新聞でなければいけないものがどれだけあるのか。
持田 教科書は基礎、基本は押さえてあるが、新聞はいま起きていることを子どもに提示できる。新聞を使うことで社会と主体的にかかわる力が身に付く。
畑 子どもを社会に送り出すことが教師の仕事だとすれば、一つひとつの単元ということではなく、社会に触れる機会を作り出すことも重要ではないか。
古畑 なぜ新聞かと考えることは第一歩。それが、もっと活用できる点は何かと考えることに発展していく。私の考える新聞の大きな魅力は「生鮮」ということだ。
広川 教材化に時間がかかる一方で、なぜ新聞なのかが分かっていないと広まらないと考えてあえて問題提起した。実践していて新聞が必要だと思った事例もある。子どもに「今、新聞がほしいな」という感覚を持たせる道筋を考えることが大事だ。
――教師にとってはいろいろな部分でNIEに抵抗感があるのではないか。どうすれば抵抗感をなくし、身近に引き寄せることができるか
持田 教育課程と学習環境の整備が重要だ。新聞社側と協力して取り組むことが、NIEが広がっていく方法だと思う。
古畑 自分ができる範囲で取り組み、生徒の興味を引く記事を取り上げることだ。やったらやっただけ効果がある。臨機応変にやっていけば良い。
――会場の方々で意見があればうかがいたい
会場 あまり教材化ということを出し過ぎない方が良いのではないか。新聞を読んでくれる子どもを育てる、新聞記事のことを家庭で話し合ったり、近所でも話したりできる子どもを育てることが大事なのではないか。
会場 引き寄せることに関して2点述べたい。まずは新聞に親しませることだ。読むだけでなく参加する新聞という視点が必要だ。もう一つは新聞の教材化。難しいが、肩に力を入れずにやっている。いずれにしても新聞を通して社会の動き、向こう側にいる人の顔が見えることが、新聞のすてきな特徴だろう。
会場 新聞を使う利点は、これまでの大会で議論を重ね整理してきたはずだ。先進的な取り組みが大会のたびに披露されてきたが、それでも広まらないことについて意見を交わすことがパネル討議の目的ではなかったのか。新学習指導要領が改定され、NIEに追い風が吹いているにもかかわらずその話がない。一言もないのであれば追い風にはならない。どう生かすかに触れてまとめてほしい。
――最後に一言ずつまとめを
持田 NIEは教育課程に位置付けてもらわないとなかなか長続きしない。指導計画に位置付けてほしい。
広川 31日に行う社会の公開授業で裁判員制度を扱う。(5月から始まった)制度を学ぶためのきちんとした資料は新聞しかなかった。信頼性も高く、子どもたちが判断する上での根拠とするにもベストだった。
古畑 世の中は絶え間なく動いている。新聞を使うことで世の中の動きと自分たちがかかわっているということを子どもたちに感じてほしい。身近なことを真剣に考えることで教師が想像できないような効果が出ることを期待している。
畑 戦前、道徳の授業で教科書ではなく小説を使って処分を受けた長野県の教師がいる。昔から授業で何を使うかについて教師は考えてくれていた。子どもの目が輝く授業という話があったが、新聞に限らず教科書以外のものを使ってほしい。新聞社の側も提言を生かしていきたい。
澁澤 習得と活用という新しい関係が新学習指導要領に出てきた。習得したものをどこで活用するのかというと、想定されるのは実生活・実社会だろう。その場面で新聞が浮かび上がってくる。実生活・実社会を感じるためのものとして新聞を位置付け、活用していく方向でNIEを軌道に乗せていく。そういう点で新学習指導要領は追い風なのだろう。今日の議論で不十分だったのは、NIEにとって家庭や地域をどう位置付けるかという点だ。学校への社会的要請が増える中で、今後は家庭や地域に主導権を取ってもらうことも必要になってくる。生涯学習を踏まえた活動が今後は要請されるだろう。(2009.7.30収録)