HAPPY NEWS 学校での取り組み

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新聞で書く力がついた、視野が広がった

庄原市立比和中学校

全校生徒34人。広島県北部の高地が広がる庄原市でも最小規模の中学校が新聞を使った授業を通じ、読解力や文章力を伸ばしている。庄原市立比和中学校の柳生登子教諭(59)は「子どもたちのやる気を高めているのが、新聞社の賞やコンクールへの応募」と話す。応募作品は国語と社会、総合的な学習の時間の授業の中で創作。34人が必ず1点ずつ応募している。

もともと作文指導が盛んな庄原市。「書く力はあったと思うが、新聞記事を読むと論理的思考も鍛えられると分かり、授業に取り入れた」。2009年度に広島県中学校学力向上対策事業の指定校になったのを機に、小中学生が詩と作文を競う鈴木三重吉賞に挑戦。10年度に応募を始めた地元新聞社の新聞コンクールには毎年、好きなテーマで新聞をつくるジュニア新聞、切り抜き新聞、新聞感想文の各部門に挑んでいる。

今、応募している新聞関係の賞やコンクールは12に上る。「特に力を入れているのはテーマ選び。一人一人が興味を持ったり、心を動かされた記事を大事にしている。提出時の誤字・脱字にも職員全員で目配りをしています」と学校一丸の姿勢を強調する。

11年度には新聞コンクールの新聞感想文部門で3年生の男子が最優秀賞に選ばれた。東日本大震災による福島第1原発事故の影響で放射能被害を受けた牛を殺処分せず、研究目的で飼育を続けるという記事に絡め、自宅で飼っている牛と祖母の交流を紹介した。同じテーマの作文が鈴木三重吉賞の優秀賞にもなり、全文が新聞に掲載された。

後日、この文章を読んだ男性から、「おばあさんと話したい」と電話が入った。「新聞が人と人をつないでくれたと実感した」と柳生教諭。生徒は大半が保育園から中学校まで同じ顔ぶれで育つ。「対外的に人と接する機会が少ない。新聞を読むことは外部との接触の疑似体験と考えている。実際に交流が生まれたのがうれしい」と振り返る。

1月に地元新聞紙上で「HAPPY NEWS キャンペーン」を知った。生徒全員が心の温まった記事を切り抜き、感想を400字にまとめた。iPS細胞の発見、パキスタンの子どもたちに広島から折り鶴を贈る話……。2、3年生全員の計17人で、選んだ新聞を紹介しながら意見を発表する会も開いた。「心温まる記事を探す際、他の記事にも目を通すため新聞を読む力がついた。自分の考えをまとめ、人前で話す力も養えた」と感じる。

文章力を養おうと昨年度から新聞のコラムの書き写しも始めた。これら、授業への新聞活用法を講演するために柳生教諭は昨年、高知県の中学校に招かれている。

言葉の教育への取り組みが評価され、本年度の広島県教委の教育奨励賞(県内2校)を受けた。「全員の活動が認められたのが一番うれしい。小さな学校でも、頑張れば結果が出せると生徒たちの自信になったはず」とほほ笑んだ。

中国新聞社庄原支局・森下敬