「虚」・「実」・「理」をあらわす言葉を考える

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昨年、ある国語の研究会に参加して、アドバイザーの先生2人とともにNIEのワークショップの講師を務めました。研究会には300人ほどが集まり、とても盛況でした。

基調講演で、高木まさき・横浜国大教授(NIE学会常任理事)が「未来を切りひらくことばの力」と題して提案した内容が面白かったので紹介します。(ただし、素人の理解ですので的外れでなければよいのですが)

高木教授は、上田閑照・京都大学名誉教授(哲学者)の著書『ことば―その虚の力』を紹介し、そこに書かれている「実」をあらわす言葉、「虚」をあらわす言葉、について解説しました。

  • 「実」をあらわす言葉=ものごとの事実を表現する言葉→記録、報告、報道など
  • 「虚」をあらわす言葉=言葉でしか言い表せないこと→文学的な表現

上田先生は、言葉は虚・実ともに表現するものであり、実の言葉に虚の言葉が光をあてて目覚めさせることで、「私の世界」は深まり、広がると述べているようです。昨今の政治家の言葉が説得力を欠くのは、実の世界だけを右往左往し、虚による深みがないからだ、と考えれば納得です。せいぜいウナギです。

高木先生は虚・実に「理」をあらわす言葉を加えました。

  • 「理」をあらわす言葉=事実として存在しなくても、概念・理屈として把握可能なこと→思想、論説、評論

という定義です。虚・実・理をあらわす言葉が、それぞれ支え合いながら言語活動が展開されれば、未来志向的な密度の濃い内容になるだろうと高木先生は考えているようだと解釈し、フムフムと感じ入りました。そして、言語活動の充実を図って学習指導要領に新聞が盛り込まれた意味を改めて考えてみました。

文学作品の内容理解や作中人物の把握、作者の意図の考察を中心にしてきた国語教育への「実」の参入であり、「理」の比重の増加ではないか、ということです。とても分かりやすいですね。言語活動には多様な視点と価値の衝突が受容される必要があり、タイムリー性があれば一層活発になるでしょう。新聞を導入した意味はそこにあると改めて認識しました。そして、新聞のコラムはほとんどが「理」の展開です。社説や評論を読む授業は、理の世界に子どもたちを導くでしょう。

文学作品によって「個」を深め、新聞によって「公」への視点を養い、個と公を考え合わせて「理」へと昇華する、そんな言語活動の光景がイメージされ、楽しくなります。

東日本大震災によって、私たちの生き方が問われています。実だけでは答えは出ません。虚による補強が不可欠であり、新しい価値の理へと進まなければと考えます。そんな未来をひらく授業が広く展開されることを期待します。

財団NIEコーディネーター 赤池 幹(2月3日)