第4回 イギリス(1999年3月)

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11道府県16人の実践教師が参加し、ロンドン、カーディフ、マンチェスター、オックスフォードを訪問。カーディフ、マンチェスターでは学校を訪問するとともに、カーディフでは新聞社のNIEコーディネーターと懇談した。

視察概要

「NIEニュース」第15号(1999年5月31日発行)掲載

英国では、地方新聞協会が「見識・教養・思慮を備えた将来の社会構成員の育成」を目的に、84年から毎年10月にNIE週間を設けて、テーマに基づいた活動用資料を新聞社・学校に配布するなどのNIEプロジェクトを実施していた。財源不足などからこのプロジェクトは96年に解散したが、これらの取り組みによって地方レベルでNIEが急速に広まったという。

現在NIEを展開している新聞社の多くは、現役の教師などをコーディネーターとしてスカウトし、全国のカリキュラムとの関係を考慮しながら、教師が使いやすい教材を開発し、無料または廉価で提供している。「現在、教育政策として基礎学力の育成が提唱されており、好景気とも相まってNIEに関しては追い風が吹いている」との見方が現地の新聞関係者から示された。学校へは無料あるいは三分の一程度の価格で新聞が提供されているという。

カーディフ

ロンドンに2日間滞在した後、一行が訪れた街は、ウェールズの首都・カーディフ。質素さと質実さが漂う落ち着いた街。同地に本社を置くウェスタン・メイル・アンド・エコー社は、年間16,000ポンド(約315万円)のNIE関連予算を組み、元小学校教師のエマ・レイボールド・NIEコーディネーターを中心に、各学年の学習内容に合わせたきめ細やかなNIE活動を展開している。学校へ新聞を無料・大幅割引で提供するだけでなく、ワークシートや教師用資料も作製。また年9回、35人ほどの教師を集め、NIE授業の講習会も開催するほか、学校へのスタッフの派遣なども実施している。

レイボールド・NIEコーディネーターは「全国共通カリキュラムとの関連性に配慮し、教師が使いやすい教材開発を心がけている。大変忙しいが国語以外の教科にも新聞活用を広げていきたい」と語る。

カーディフ郊外のステイシー小学校は、生徒数180人(5~11歳)の小規模校。1年生の授業を中心に見学したが、児童は新聞社作製のワークシートを利用して、新聞を読みながら同じ韻の語を探していた。新聞を使った授業の効果について、同校の教師は「いろいろな場面で新聞を利用しているが、読むことに自信を持つ生徒が増えてきた。また、月曜日に日曜日の記事を話題にする生徒が増えてきた」と語る。

マンチェスター

マンチェスター郊外のビクトリア・パーク小学校は、児童数270人の中規模校。地元紙のマンチェスター・イブニング・ニュース社(発行部数18万部)が、新聞や教師向けNIEトレーニングビデオなどを配布している。イシャク教頭は「新聞を読んで、記事を分析したり、書き方を勉強する。ナショナルカリキュラムで、学習目標は決められているが、教え方は学校・教師に任されている。教師に新聞を使いこなす力量が求められている」と述べた。

同校ではおもに11歳の授業で新聞を利用しているが、国語力を高めるための「読書の時間」に新聞を読む生徒も多いという。

同じくマンチェスター郊外アシェトン・オン・マージー校は、11から16歳の生徒1,200人、教師80人を抱える大規模校。政府が拡大に力を入れている国庫補助学校(保護者の投票により、公立校から自主運営に移行)だが、大学進学を目的としたグラマースクールの受験に失敗した生徒も多いという。「『君はできる』と自信をつけさせること」(ケイパー校長)が、学校の大きな目標という。

同校は、4年間で生徒が400人増加した。それにつれ国庫補助も増加する。海外も含めて頻繁に視察団が訪れるモデル校で、世界的に有名な当地のサッカークラブ「マンチェスターU」などをはじめ、企業からも多額の寄付金を受けている。

学校理事会が学校長を選任し、理事会と校長が協議して教員の採用を決める。NIE活動も特色づくりの一環で、新聞が読めるようになると子どもに自信がつくと校長は語る。現在は主に11歳の国語の授業で新聞を利用しているという。

イギリスの教育制度

初等中等学校には、地方教育局により設置・維持される公立学校と国の補助金を財源とする国庫補助学校、公費補助を受けない独立学校が存在する。

5~11歳を初等学校で過ごし、その後18歳までを総合制中等学校で過ごすのが一般的だが、初等学校修了後、グラマースクール進む生徒もいる。ただし、総合制中等学校でも大学への進学には支障はない。

イギリスの教育改革

英国では70年代に入り、生徒の学力低下が問題化し、サッチャー保守党政権は、教育改革にとりかかった。「1988年教育改革法」の施行により、全国共通カリキュラムが導入されたほか、予算の運用権が地方教育局から学校理事会に委譲され、実質的に教師の任用権も持つようになった。こうした新しい政策は「自主的学校運営」と呼ばれ、評価されている一方、教育に過度の競争原理を導入するものとの批判もある。予算配分は、生徒数を基準に算定されており、生徒数が多いほど予算を多く確保できる。

共通カリキュラムと全国テスト

共通カリキュラムは、基礎教科の内容や到達目標などについて定めたもので、95年に一部手直しされた。改訂のポイントは、「読み・書き・計算などの基本的な能力の育成の重視」「教育の内容を精選・重点化し学校や教師の裁量による授業時間の拡大」などである。カリキュラムとあわせて到達度を評価するための全国テスト(7、11、14歳時の計3回)も導入された。

参加者の感想から

  • 英国では新聞は必要なときだけ買う家庭も多いといった指摘があった。そういう状況では、新聞社が学校にある程度協力していかないとNIEが発展しないのも事実だろう。
  • 新聞社が一方的に教材を作っても利用されないと思う。どのような教材が有効なのか、まず教師と新聞社で話し合う場をつくるべきだ。
  • 日本でも実践校の指定がはずれた後も、新聞社と学校が連携した自主的な活動が可能となる体制づくりを望む。
  • NIEにとどまらず、小学校段階から「自分の意見をまとめる」指導が徹底されていることに驚いた。
  • 女子生徒が自分で作った新聞のなかで、スポーツにおける女性への偏見を大きく取り上げていた。彼女は、女子サッカーチームのメンバーだが、日ごろから新聞・テレビの報道で女子チームが全く取り上げられないことに不満を感じているという。ジェンダーの問題についての授業があるわけではない。家庭での学習やNIEを通じてこの問題に気づいたようだ。NIEの一つの大切な方向性を見た思いがする。
  • 現地の教師から、「自分の考えをまとめるのに、新聞の情報は役に立つが、情報選択の基準は正しく持ってほしい」との意見を聞いた。留意している点だが、改めてその重要性を感じた。
  • 取材対象者を招き、生徒が記者となった記者会見方式の授業は参考になった。安全面や時間的な制約も少ないので、効果的な取材が可能となる。ぜひ取り入れてみたい。

日程

3月20日(土)
  • ロンドン着
3月21日(日)
  • ロンドン ロンドン市内視察
3月22日(月)
  • カーディフ ウェスタン・メイル・アンド・エコー社訪問
  • NIEコーディネーター エマ・レイボールド氏 ステイシー小学校訪問
  • ブリティッシュ・カウンシル・カーディフ訪問
3月23日(火)
  • マンチェスター ビクトリア・パーク小学校訪問
3月24日(水)
  • マンチェスター
  • アシェトン・オン・マージー校訪問
  • マンチェスター大学の代表者(ゾエ・トークス氏=グレーター・マンチェスター日本センター渉外部長)から説明
3月25日(木)
  • マンチェスターからオックスフォードへ
3月26日(金)
  • オックスフォード視察後、ヒースロー空港へ
3月27日(土)
  • 成田空港着