第13回NIE全国大会(高知)

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新聞を活用して育てる社会力 ~新しい教育課程を踏まえて

パネルディスカッションは、「新聞を活用して育てる社会力~新しい教育課程を踏まえて」をテーマに掲げ、横浜国立大学の髙木まさき教授をコーディネーターに、文部科学省初等中等教育局の大倉泰裕教科調査官、友村憲朗・高知市立横内小学校校長、川口加代子・同市立江ノ口小学校教諭、NIEアドバイザーの迫有香・廿日市市市立大野中学校教諭が、新学習指導要領におけるNIEの課題と展望について話し合った。

パネリスト 大倉泰裕氏 文部科学省初等中等教育局教科調査官
友村憲朗氏 高知市立横内小学校校長
川口加代子氏 高知市立横内小学校教諭
迫有香氏 広島県廿日市市立大野中学校教諭(NIEアドバイザー)

コーディネーター 髙木まさき氏 横浜国立大学教育人間科学部教授(神奈川県NIE推進協議会会長)

パネルディスカッション

髙木 今年3月に告示された新学習指導要領では新聞が広く取り上げられた。その背景には、中央教育審議会でも重要視している「知識基盤社会」への対応があるだろう。社会の窓口であり、多様な価値観との出合いの場でもある新聞を通して、次世代を担う子どもたちの「社会力」や思考力をどのようにはぐくんでいけばいいか、NIEを実践されている先生方とともに考えていきたい。

――新学習指導要領のポイントは

大倉 新学習指導要領の基本的な考え方には、「生きる力」をはじめ知識・技能の習得、思考力・判断力・表現力の育成などがある。PISAやTIMSS(国際数学・理科教育動向調査)で、思考力・判断力・表現力を問う記述式問題、知識・技能を活用する問題などに課題があることが明らかになった。これを受け、新学習指導要領は言語活動の充実を柱のひとつに位置づけ、国語科において読み書きなどの基本的な力を定着化させた上で、各教科でも記録、説明、論述、討論などの充実を打ち出した。

――これまでのNIE実践について

友村 本校のNIE推進に中心的な役割を担う学校図書館では、新聞を開架にして、できるだけ多くの児童が新聞に触れられるようにしている。また、小学生新聞をハンガーに吊って整理し、手に取りやすくすることで、新聞を身近に感じられるよう工夫している。スクラップ作業を保護者にご協力いただき、分野別にファイルしている。夏には高知新聞社の協力で、「ふれあい子ども教室」を開き、「朝刊太郎(新聞作成のフリーソフト)」を使った新聞づくりを行った。「総合的な学習の時間」では、ご当地検定が話題になっているとの新聞記事を取り上げ、子どもたちに地元の検定を考えさせて、その問題を観光客に配布する活動も行った。

川口 「自分の考えを豊かに表現する力を育てる」を学校目標として掲げ、昨年から学校全体で新聞を使った授業に取り組んでいる。NIE実践は、①新聞に親しむ、②新聞から学ぶ、③新聞づくりを通して発信する――の3点に留意して取り組んだ。「新聞に親しむ」では、4、5年生を対象に4コマ漫画を使用したほか、「新聞から学ぶ」では、5、6年生が新聞スクラップをしたりコラムを読んだりして、4年生はこども新聞を使って、好きな記事を選びスピーチしたり、市町村を調べるなどした。「新聞づくり」では、できあがった新聞を子どもたちで互いに読み合ったり、高知新聞の記者に講評してもらった。

 2000年から2年間、「総合的な学習の時間」、社会科、学校全体でNIEを実践し、03年から08年まで「子どもが新聞を好きになる」を念頭に実践してきた。NIEの実践の際に気をつけているのは、活動主義に陥いらないこと。また、記者というフィルターで書かれた記事を無批判に扱っていないか、事実描写を自分がどうとらえ、生徒にどう教えたらよいのか、を常に問題意識としてもっている。

今年度は「深く考え豊かに表現する生徒の育成」をテーマに、新聞スクラップノートの質的向上を目指している。これまでスクラップした新聞記事の要約や感想を書かせていたが、今年はさらに「なぜそのように考えたか」という項目をつけ加え、意見や理由を理論的に考える力を身につけさせることを狙った。まずは意見や理由の根拠が事実に基づくものなのか、主観に基づくものなのかについて子どもに考えさせ、事実と主観を区別できるよう指導することから始めている。今後のNIEの課題として、どのような教育効果を狙って、新聞を活用していくかを明確にしなければならないと考えている。

――新学習指導要領におけるNIEのありかたについて

大倉 新聞は教材としてつくられているわけではないので、どれだけ使いこなせるかは先生の力量が問われる。新学習指導要領では、国語科を中心に「言語活動の充実」を各教科で求めている。課題追求型の宿題を出すと、インターネットから情報を切り張りしたリポートがたくさん出てくるという話をよく聞く。今、紹介された実践事例は、児童・生徒がそれぞれ自分で考え、まとめることで、学習活動を深めている。これらの点において新学習指導要領の狙いを見事に実現していると思う。

 新学習指導要領は、中学校社会科で近現代史を重視している。シラバス(授業計画)を作る際に、新聞を取り入れた授業を社会科のどこで入れるかも含めて、再構成することが大事だ。

川口 NIEを実践するなかで、子どもは辞書を引くことを面倒だと言わなくなったし、新聞に慣れることで教科書の漢字にも抵抗を感じなくなってきている。子どもがつくった新聞には、保護者からの反響がとても大きく、新聞づくりを通じて家庭との連携が深まっている。新聞を楽しむ気持ちを大切にして、新学習指導要領を味方に今後、取り組んでいきたい。

友村 厳しいこれからの世の中を生きていくために、社会をより良く変えていく力が子どもたちに求められている。問題の核心を見抜き、事実をしっかりと認識する力、自分の考えを自分の言葉で表現する力が求められる。国語だけでなく、生活科や「総合的な学習の時間」で、インタビューやお礼の手紙を書いたりするなどの場を設定すれば、子どもたちは言葉の力をつけていくのではないか。

髙木 教科書は教材としてプログラム化されているので完結している。一方、新聞は多様性や流動性があり、試行錯誤ができる。その点で、新聞は「知的冒険の場」としての要素をもっていると言える。先生が新聞を活用してどのような授業を行い、NIEを発展させていくかを考えることが大切だ。学びというのは、無駄、失敗も含めて経験するからこそ深まっていくもので、そこに新聞を活用するNIEの良さがあると思う。(2008.7.31収録)